ストレッチ

実践しよう!解剖学・生理学にもとづく正しいストレッチの方法!

実践しよう!解剖学・生理学にもとづく正しいストレッチの方法!

ストレッチ(stretch)という言葉は、「引き伸ばす」「伸張する」といった意味があります。柔軟体操としての伸張法はストレッチング(stretching)ともいわれます。 

ストレッチは、年齢、性別、障害の有無、スポーツ経験の有無を問わず、さまざまな場面で行われています。仕事や勉強の合間に体を伸ばして気分転換することも、ストレッチのひとつといえるでしょう。 

子どもの頃を思い出してみると、体育の準備体操や夏休みのラジオ体操など、ストレッチをする機会は多かったと思いますが、それらは正しい方法で実施できていたのでしょうか。 

一般的に、ストレッチはスポーツなどによる傷害の予防と柔軟性の向上を目的に行われますが、そのためには科学的に正しい方法を理解しなければなりません。 

ストレッチを正しく実践するために、まずは解剖学・生理学を復習していきましょう。

ストレッチに必要な解剖学・生理学の知識とは?

ストレッチには、動的ストレッチ(ballistic stretchingまたはdynamic stretching)と静的ストレッチ(static stretching)があります。 

例えばアキレス腱のストレッチをする時に、踵を上げ下げして反動をつけながら伸ばしている人を見かけますが、このような方法で行うのが動的ストレッチです。 

動的ストレッチは、伸張反射を誘発して筋緊張の亢進を招いたり、反動をつけることで筋や腱の傷害を引き起こしたりする危険性があるため、ほとんど用いられなくなってきています。 

静的ストレッチは、反動をつけずにゆっくりと筋を伸ばして、そのまま数十秒保持する方法です。動的ストレッチと比べて安全性が高く、ストレッチ効果が高いといわれています。 

現在では、ストレッチといえば静的ストレッチのことをいいますが、なぜ静的ストレッチの方が効果的なのでしょうか。その理由を神経・筋の構造とメカニズムから考えてみましょう。

神経と筋の構造

大脳から出た運動の指令は、脊髄に到達して前角細胞とシナプス(神経の接合部位)を形成し、前角細胞から骨格筋に指令が伝わることで筋が収縮します。前者の経路を上位運動ニューロン、後者の経路を下位運動ニューロンといいます。ニューロン(neuron)とは神経細胞のことです。 

下位運動ニューロンには、実際の収縮力を発揮する錐外筋線維を収縮させるα運動ニューロンと、筋の長さのセンサーである錐内筋線維(筋紡錘)を収縮させるγ運動ニューロンがあります。 

γ運動ニューロンの活動がないと、筋の収縮時に筋紡錘が弛緩してセンサーとしての役割を果たせなくなります。つまり、γ運動ニューロンは筋紡錘の感度を調整しているのです。 

そのため、α運動ニューロンとγ運動ニューロンは同時に活動して錐外筋線維と錐内筋線維を収縮させます。これをα-γ連関といいます。 

筋の長さの情報を脊髄に伝える求心性の神経繊維は、筋紡錘からのⅠa線維とゴルジ腱器官からのⅠb線維があり、これらは伸展受容器と呼ばれる感覚器(センサー)です。 

筋紡錘とゴルジ腱器官は、筋の収縮や伸張によって引き伸ばされて、その情報を脊髄に送ります。特に、筋紡錘は伸張の速度に反応します。 

これらのセンサーは姿勢や肢位の変化にともなう筋の長さの変化をとらえて、姿勢や運動の調整に役立っています。

伸張反射

膝蓋腱を叩打すると、反射的に大腿四頭筋が収縮して膝が伸展します。いわゆる「深部腱反射」のメカニズムが伸張反射です。 

筋が急激に伸張されると、筋紡錘も伸張されてⅠa線維の活動が高まり、その情報が脊髄に伝えられます。Ⅰa線維は脊髄内で同名筋の前角細胞と直接シナプスを形成しているため、Ⅰa線維の活動はα運動ニューロンの活動を引き起こし、同名筋を収縮させます。 

Ⅰa線維のもうひとつの経路として、脊髄内で抑制性の介在ニューロンを介して拮抗筋の前角細胞とシナプスを形成し、拮抗筋の収縮を抑制することで伸張反射を促進しています。これを相反抑制(Ⅰa抑制)といいます。

自己抑制と相反促通

筋が持続的に伸張されるとⅠb線維の活動が高まり、その情報が脊髄に伝えられます。Ⅰb線維は脊髄内で抑制性の介在ニューロンを介して同名筋の前角細胞とシナプスを形成しているため、Ⅰb線維の活動はα運動ニューロンの活動を抑制して、同名筋を弛緩させます。これを自己抑制(Ⅰb抑制)といいます。 

Ⅰb線維のもうひとつの経路として、脊髄内で興奮性の介在ニューロンを介して拮抗筋の前角細胞とシナプスを形成し、拮抗筋の収縮を引き起こします。これを相反促通といいます。 

Ⅰa抑制やⅠb抑制のように、ある筋の作用にともなって拮抗筋に相反する作用が働き、スムーズな関節運動を実現する神経系のメカニズムを、相反神経支配といいます。 

これらの抑制のメカニズムは、筋の急激な伸張や強い収縮による損傷を防ぐことにも役立っています。

筋緊張の調整

γ運動ニューロンの活動により筋紡錘の感度が高まると、わずかな筋の伸張によって伸張反射が生じ、筋緊張が高まります。 

この経路はガンマ・ループ(γ-loop)と呼ばれ、筋緊張を調整するための重要なメカニズムです。 

同じ姿勢や運動を続けたり脳卒中などで上位中枢からの抑制が失われたりすると、γ運動ニューロンの活動が過度に高まり、筋緊張が亢進します。 

逆に言えば、筋緊張が亢進しているということはγ運動ニューロンの活動が過度に高まっており、伸張反射が起こりやすい状態であるため、ストレッチを行う際には十分な注意が必要になります。

科学的に正しいストレッチの方法とは?

リラクゼーション

まずは全身をリラックスさせることから始めましょう。 

私たちの体は特別な運動をしていなくても、同じ姿勢を長時間とっていたり同じ動作を繰り返したりしていると、γ運動ニューロンの活動が高まって筋緊張が亢進します。 

α運動ニューロンもγ運動ニューロンも脳などの上位の中枢と連絡をとっているため、筋緊張の亢進は精神的な緊張を引き起こし、精神的な緊張は筋緊張の亢進を招きます。 

ストレッチをする前に軽く体を揺すったり深呼吸をしたりして、心身をリラックスさせましょう。

ゆっくりと伸ばす

繰り返しになりますが、筋を急激に伸ばしたり反動をつけて伸ばしたりすると、伸張反射を誘発して筋緊張の亢進を招いたり、筋や腱の傷害を引き起こしたりする危険性があります。 

ゆっくりと伸ばすことで、Ⅰb抑制が働いて筋が弛緩しやすくなり、ストレッチ効果が高まります。 

痛みを感じない程度まで伸ばしたら、30〜60秒はその姿勢を保持しましょう。数秒程度伸ばしただけでは、十分なストレッチ効果は得られません。 

ストレッチは一人で行うこともできますが、他者の介助で行うものもあります。前者をセルフ・ストレッチ、後者をパートナー・ストレッチといいます。 

ここでいうパートナーとは、トレーナーや理学療法士も含まれます。 

セルフ・ストレッチは自重や自分の筋力を利用するため、時間や場所を選ばず手軽に行うことができます。ストレッチしたい筋の拮抗筋を収縮させれば、相反神経支配により弛緩が得られやすくなります。 

パートナー・ストレッチは、セルフ・ストレッチよりも強くストレッチができる利点がありますが、相反神経支配による筋の弛緩が利用できないため、ストレッチをされる側は十分に脱力することが必要になります。

少しずつ負荷を強めていく

ストレッチを始めるときは、最初に全身の大きな筋のストレッチ、その後に局所の筋のストレッチ、という手順で行います。 

はじめから強い伸張を加えるのではなく、まずは楽にできる簡単なストレッチから始めて、少しずつ量や種類を増やして負荷を高めていきます。 

強い痛みを感じるほど伸張すると、筋が防御的な収縮を起こして筋緊張を高めてしまうため、逆効果です。痛みを感じる少し手前、「痛気持ちいい」くらいを目安にしましょう。 

筋や関節の柔軟性には部位差があるため、疾患や障害がある場合など特殊な例を除けば、身体の左右や上下肢の比較はあまり参考にはなりません。 

ストレッチの目的に応じて、自分の体に合った目標を設定し、自分のペースでできる方法で行いましょう。

できるだけ毎日行う

ストレッチに限ったことではありませんが、トレーニングは1回に長い時間をかけて行うよりも、毎日少しずつ行った方が効果的です。 

効果を高めるためには、少なくとも週に3回以上のトレーニングが必要です。 

例えば、外来リハビリやトレーニングセンターに週1回しか通えないというような場合には、セルフ・トレーニングを行うことが重要になります。 

ストレッチの効果を高めるためには伸張する筋を意識しながら行った方がよいのですが、継続的に行うためには「テレビを観ながら」「ラジオを聴きながら」といった、いわゆる「ながら運動」も必要です。 

トレーニングの継続性という観点からは、他者と一緒に行うことで課題の成績を高めることができる「社会的促進」という心理効果を利用して、パートナー・ストレッチができる環境を整えることも勧められます。 

ポイントカードのように実行状況を目で見えるように示したり、一定期間継続できたら自分へのご褒美を設定することも、トレーニングを続けるためのモチベーションになるでしょう。

おわりに

最近では、学校の部活動でも科学的トレーニングの導入を推奨するガイドラインが作成されています。 

ストレッチは時間や場所を選ばず手軽にできる反面、経験則や慣習に依存しやすい傾向があります。 

しかし、不適切な方法で行われるストレッチは効果が出ないばかりか、体に悪影響を及ぼす可能性さえあります。 

これまで行ってきたストレッチを科学的な観点から見直して、安全で効果的なストレッチを実践しましょう。 

 

(参考文献) 

貴邑冨久子,根来英雄:シンプル生理学.南江堂

栗山節郎,川島敏生:新・ストレッチングの実際.南江堂

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