上位交差症候群の基本的な考え方と治療【肩こり】
肩こりの痛みを訴える患者さんに対して、なで肩・猫背だからですよ!と説明する理学療法士・作業療法士も多いと思います。
しかし、その姿勢がなぜ出来上がったかを説明せず、ただ単に脊柱の伸展を促す治療をしてみたりホームエクササイズを指導しても意味がありません。
なぜ猫背になるのか、どうしたら良いのか、ここでは基本的な理論を説明したいと思います。
上位交差症候群とは?
後頭下筋群や僧帽筋、大胸筋など頸部後面と胸部の筋肉の緊張が高くなり、頸長筋や菱形筋、僧帽筋中・下部など頸部前面と背部の筋肉が弱くなり、体の前後で弱い筋肉と強い筋肉がクロスしてバランスを取っている状態のことを指します。
この場合多くは体幹に対して頭部が前方突出しており、胸椎の生理的後弯が強くなっているため、いわゆる猫背姿勢となっています。
どうして上位交差症候群になるの?
加齢による脊柱の変形
頚椎・胸椎・腰椎のうち、重心線の後方に関節軸が存在するのは胸椎のみです。
つまり、脊柱のうち胸椎にのみ屈曲モーメントがかかり続けることになります。
椎体は椎間関節があるため伸展モーメントに対しては物理的な安定性が高いのですが、屈曲モーメントに対する安定保持には黄色靭帯や脊柱起立筋などの軟部組織のみになるため、屈曲モーメントに対しては構造的安定性が低くなります。
そのため、加齢に伴う軟部組織の劣化により脊柱の屈曲モーメントに対する抵抗力が低下し、胸椎が屈曲していきます。
胸椎が屈曲位になることで多くは頚椎を伸展させることでカウンターを取ります。
これにより猫背が完成され、上位交差症候群へと進んでいきます。
作業負荷
例えばデスクワークの場合、両手を前に出して作業を続けます。
この時両肩甲骨は外転・上方回旋となります。
つまり前鋸筋が優位に働きます。更に筋連結があり、上肢屈曲の共同筋である大胸筋も収縮するため体幹としては屈曲モーメントが発生します。
さらに相反抑制により、僧帽筋中・下部繊維と菱形筋は弛緩します。
そのため胸椎にかかる屈曲モーメントを抑制するものが少なくなり、結果として胸椎の屈曲が大きくなります。
また最近ではスマホを見る姿勢も上位交差症候群を作り出す原因となります。
多くの場合スマホを見る時は頚椎が屈曲します。
このため頭部重心が前方変移しますので、胸椎にも同様に屈曲モーメントが働きます。
結果として胸椎が屈曲していきます。
姿勢の影響
座位保持において骨盤後傾が続くと腹部が短縮されます。
これにより腹筋群の緊張します。
外腹斜筋は前鋸筋、腹直筋は大胸筋との筋連結があるためこれらの筋の短縮が胸椎を屈曲に誘導する筋の緊張を招きます。
そのため、骨盤後傾が保持されることで胸椎が屈曲し上位交差症候群へ移行していきます。
上位交差症候群の基本的治療
まず、何が原因で上位交差症候群になっているかを評価する必要があります。
どこが原因となっているかで治療ターゲットが変わってくるためです。
例えば、加齢に伴う胸椎の変形が原因であればまず胸椎伸展の可動性を確保すべきです。
作業負荷が原因であれば肩甲骨、もしくは上肢からの運動連鎖から胸椎伸展を促すべきですし、骨盤後傾が原因であれば腹部体幹を促し、骨盤からの運動連鎖で胸椎の伸展を引き出す必要があります。そのため、まずはしっかりと患者さんの運動評価を行いましょう。
簡単な評価としては、まず座位姿勢の評価を行いましょう。
そこで
- 体幹の伸展
- 肩関節の挙上
- 骨盤の前後傾
以上3点を評価することで、おおまかどこからアプローチしていくべきかわかります。
もし胸椎の変形からくる場合、体幹の伸展を胸椎屈曲位のまま行う場合が多いです。
また、作業負荷に伴うものであれば肩甲上腕リズムの破綻が見られることが多くあります。
骨盤後傾に伴うものであれば、骨盤の前後傾コントロールが苦手なことが多いです。
多くの場合はこれらの原因が複雑に絡み合っているため、この治療をすべき!というプロトコールになり得るものはありません。
なので細かな評価を行い、臨床推論を進めていく必要があります。
おわりに
いかがでしょうか?上位交差症候群の基本的な考え方を、紹介させていただきました。
経験を積むほど奥が深くなり、またアプローチの仕方も様々です。漫然と伸ばしておけばいいやで治る疾患ではありません。しっかりと考え、臨床推論しながら治療していきましょう。
(参考文献)
エルゼビアジャパン:理学療法のクリティカルパス 上肢・脊椎