肩関節脱臼はどう治す?原因と治療法

関節の周りは靭帯や筋肉で覆われており、関節を構成する骨同士が一定の関係を保つように守られていますが、一定以上の外力が加わると関節面がずれて関節としての機能を維持できなくなってしまうことがあります。
これを「脱臼」と言い、肩関節では転倒やスポーツ競技中の衝突などでよく起こります。
今回は、肩関節脱臼についてその原因や治療法について詳しくご紹介します。
肩関節脱臼の原因と分類
肩関節脱臼の程度や種類、原因についてご説明します。
脱臼と亜脱臼
「脱臼」という言葉とともに「亜脱臼」という言葉もよく耳にすることがあると思いますが、この違いは脱臼の程度の差になります。
「脱臼」は関節面同士が完全にずれて接触がなくなってしまったもの、「亜脱臼」はまだ関節面の一部は接触が残っている状態を言います。
肩の脱臼のレントゲン画像

脱臼の方向と受傷機転
同じ「脱臼」でも、受傷機転や加わる外力によって脱臼する方向が異なります。肩関節の脱臼で最も多い方向が、上腕骨が前方に偏移する「前方脱臼(特に前下方が多い)」です。前方脱臼は、後ろから手を引っ張られたり、スキーやスノーボードなどで激しく転倒したり、ラグビーなどで前方から激しく当たられたときなどによく起こります。
前方脱臼に比べて頻度が少なく、見落とされがちなのが「後方脱臼」です。後方脱臼は、転倒して前方に強く手を前についたときなどに起こります。
肩関節脱臼の治療法
肩関節脱臼の治療法についてご説明します。
整復

肩関節を脱臼した際に、まず行わなければならないのが関節を元の位置に戻す「整復」です。
医療機関についてから医師や柔道整復師の施術によって整復される場合もあれば、自分で軽く腕を引っ張って牽引しているうちに整復される場合や、意図的に何かを行わなくても自然に整復される場合もあります。
いずれにしても、きちんと関節が正常な肢位に戻っているか確認するために整復後はレントゲンを撮る必要があります。
保存療法

一度目の外傷性脱臼の場合は、ほとんどが保存療法を選択することになります。脱臼の程度にもよりますが、数週間は三角巾とバストバンドで肩関節が動かないように固定し、同時に消炎処置を行います。
安静期間を過ぎたら脱臼しにくい肢位の中で少しずつ肩関節の動きを取り戻したり、肩関節周囲の筋力強化を行っていきます(リハビリテーション)。
可動域訓練の中では、脱臼肢位にならないような安全な動作の練習も行い、徐々に日常生活やスポーツ競技への復帰となります。
手術療法

保存療法を行っても何度も脱臼を繰り返してしまったり、関節不安定性などにより日常生活に支障をきたす場合、ラグビーなど接触の多いスポーツ競技を行っておりパフォーマンスに支障をきたす場合には、手術療法が選択される場合もあります。
手術療法では、靭帯や周囲の組織を縫合するなどして脱臼によって傷んでしまった組織を修復します。
手術後は安静期間ののち、保存療法と同じように可動域や筋力の回復を行うためのリハビリテーションが必要になります。
肩関節脱臼後のリハビリテーション
保存療法および手術療法の術後いずれもリハビリテーションが必要になります。
ここでは、肩関節脱臼後に必要なリハビリテーションをご紹介します。
肩甲骨内転エクササイズ
腕を後ろに引いたり(肩関節の伸展)、ボールを投げる動き(肩関節の外転+外旋)では肩関節が前方脱臼しやすい肢位になります。
このとき、肩関節の動きに伴って肩甲骨がしっかり内転する(内側に寄る)ことで肩関節への負担が軽減され再脱臼を防ぐことができますので、肩甲骨の内転方向への動きはしっかりと習得しておく必要があります。
- 立位または座位の状態で背筋を伸ばし、左右の肩甲骨を内側に寄せ(内転し)て胸を張ります。
- 背中の内側に緊張を感じたらゆっくりと元の楽な状態に戻し、また肩甲骨を内側に寄せるという動作を繰り返し行います。
このとき腕を後ろに引きながら行うと、肩甲骨の内転よりも肩関節の伸展動作が大きくなってしまうことがありますので、手は体側につけるか膝の上に置くなどして腕が大きく動かないようにしておきましょう。
回旋筋腱板トレーニング
肩関節の周りには、肩甲下筋、棘上筋、棘下筋、小円筋という筋肉があり、これらの総称を回旋筋腱板と言います。
回旋筋腱板は肩関節を動かすだけでなく、靭帯とともに関節の安定性を保つ役割をしており、再脱臼を防ぐためにはこれらの機能を高めることがとても重要です。
回旋筋腱板は大きな筋力を発揮する筋肉ではないので、軽いダンベルやトレーニングチューブを使用し、軽い負荷で正しいフォームでトレーニングを行うことが重要です。
1.肩甲下筋エクササイズ
肩甲下筋は肩関節の内旋(内に捻る動き)に作用する筋肉です。
- 棒や柱に自分の肘の高さでトレーニングチューブの一端を括り付け、トレーニングする側の腕の外側にチューブを括り付けた柱がくるように立ちます。
- 背筋を伸ばして肩甲骨を軽く内転し、トレーニングする側の脇をしめて肘関節を90度に曲げ、手のひらは上を向いた状態で、チューブの端を持ちます。
- 脇をしめて肘の位置は固定した状態でチューブを引っ張って肩関節を内旋させては戻す動きを繰り返します。
2.棘下筋、小円筋エクササイズ
棘下筋、小円筋は肩関節の外旋(外に捻る動き)に作用する筋肉です。
- 棒や柱に自分の肘の高さでトレーニングチューブの一端を括り付け、トレーニングする側の腕の反対側に柱がくるように立ちます。
- 背筋を伸ばして肩甲骨を軽く内転し、トレーニングする側の脇をしめて肘関節を90度に曲げ、手のひらは上を向いた状態で、身体の前をトレーニングチューブが床と平行に通るようにし、チューブの端を持ちます。
- 脇をしめて肘の位置は固定した状態でチューブを引っ張って肩関節を外旋させては戻す動きを繰り返します。
3.棘上筋エクササイズ
棘上筋は肩関節の外転初期に大きく作用する筋肉です。
- トレーニングする側の上腕骨の遠位に半分に折りたたんだトレーニングチューブを引っ掛けて、身体の後ろを通したら反対側の手でチューブの両端を持ちます。
- 両手は身体に沿わせるように下ろし、肩甲骨を軽く内転して胸を張った状態から肩関節を少し外転(30度程度まで)しては下ろす動きを繰り返します。
- このとき、肩に力が入って肩をすくめないように注意してください。
今回はエクササイズの負荷としてトレーニングチューブを使用するパターンをご紹介しましたが、肢位を工夫して行えば軽めのダンベルを用いても行うことができます。
プランクエクササイズ
プランクエクササイズは、体幹トレーニングとしてもよく使われるトレーニングですが、上肢帯と言われる肩甲骨周りの安定性を高めることにも適したトレーニングです。
プランクの正しい姿勢を維持することで、肩甲骨を良い位置に保ちながら回旋筋腱板の全てをバランスよく使うことができます。
- 肘を90度に曲げ、両方の肘から手首を平行にした状態で肩幅に開いて床につきます。
- 足はつま先だけが床につくようにして身体を横から見た時に肩から足首までが一直線になるように浮かします。
- 呼吸を止めることなく、その状態が崩れないように30秒から60秒(慣れるまでは10秒から)維持します。
肩甲骨が背中から浮き出ることなくしっかりと背中に張り付いた状態であることがポイントです。そのためには、脇をしめる意識をしながら肘でしっかりと床を押すことが重要です。
肩関節脱臼の再発予防のために
一度脱臼したことのある関節は、そうでない関節に比べて脱臼しやすい傾向にあります。脱臼を何度も繰り返し、ちょっとしたことで脱臼してしまうようになった状態を「反復性肩関節脱臼」と言います。
肩関節の脱臼を繰り返さないためにも、次のような点に気を付ける必要があります。
肩関節周囲の筋力をつける
本来関節の周囲には靭帯や関節包といった筋肉よりも硬く伸張性の少ない組織があり、脱臼しないように関節を保護しています。
一度脱臼してしまうとその部位の関節包や靭帯は断裂したり緩くなってしまい、一度損傷してしまったそれらの組織は手術などを行わない限り元通りになることはありません。
しかし、関節の周りにある筋肉の機能をしっかりと高めることで靭帯や関節包の役割をある程度は補うことができます。
再脱臼予防のためには肩関節周りの筋肉をバランスよく鍛えることが大切です。
肩関節周囲の柔軟性を保つ
多くの関節脱臼は大きな外力によって関節に無理な負荷がかかったときに生じます。
関節周囲の柔軟性が高く、関節可動域が大きいと脱臼もしにくくなり、柔軟性が低下しており関節可動域が小さいと脱臼しやすくなってしまいます。
脱臼肢位を取らないように注意しながらも、肩関節周囲の筋肉の柔軟性を高め、可動域をしっかりと確保することも重要です。
脱臼肢位を回避する
どんなに肩関節周囲の筋力や柔軟性が十分な状態であっても、脱臼しやすい肢位をとってしまうと再脱臼のリスクは格段に高まってしまいます。
脱臼についての理解を深め、日常生活内でも脱臼リスクの高い肢位をとらないように心がけることが、一番の再脱臼予防となります。
おわりに
今回は、肩関節脱臼について原因や治療、リハビリテーションから再発予防の方法まで詳しくご説明しました。
保存療法での治療およびリハビリテーションをいかにきちんと行えるかどうかによってその後の予後が変化してきます。
今回の内容をしっかりと理解していただき、機能回復、再発予防を徹底的に行っていただきたいと思います。