セラピストの第3の手になるレッドコードとは?
「ROMをするともう1本支える手があれば…」なんて思ったことはありませんか?リハビリの治療において、いかに患者様にリラックスしてもらうかは重要なポイントですが、そのためには四肢の重さを支えることが必要です。そこで、活用できるリハビリ機器がレッドコードと呼ばれるものです。今回は「セラピストの第3の手」になるレッドコードについてご紹介します。
レッドコードって何?
レッドコードと聞いてピンとこない人もいるかもしれもしれませんが、近年、メジャーになりつつあるリハビリ治療機器の一つです。
人によっては「スリングセラピー」といったほうが、聞き覚えがあるかもしれません。
そこで、まずはレッドコードとは何か、簡単に紹介します。
ノルウェー発のリハビリ機器
レッドコードとは北欧のノルウェーで開発された機器で、医師や理学療法士によって開発されました。
実は、ノルウェーは立憲君主制国家なのですが、王族にリハビリ専門職がいたらしく、国を挙げて目玉となるリハビリ治療機器や治療法の開発を行った結果としてできたのがレッドコードだということです。
日本には1997年に導入されており、導入から20年と意外と長く経過しています。
ものを吊るす機能が特徴
「ものを吊ること」がこの道具の特徴です。天井からのロープの先に吊り具(スリング)がついており、それに手足や体幹を乗せたり、握ったりして使用します。
このスリングの機能を生かした活用法が多くあり、医療現場はもちろんのこと、スポーツ現場、しかもプロ選手やオリンピック選手も活用しています。最近ではデイサービスなどの介護現場でも普及し始めています。
レッドコードのスリングの機能を活かした特徴とは?
レッドコードはスリングの機能を活かした特徴を用いて様々な治療法に活用することができます。
その1つがタイトルにもあるように「セラピストの第3の手となる」という点です。
他の特徴も含めて、大きく3つの特徴に分けて紹介します。
セラピスト第3の手となる
レッドコードは天井から吊るされた吊り具を使用して、体の一部を支えることができます。
そこで、突然ですが股関節のROMを実施する場面を思い出してください。股関節の関節包内運動を意識しながら、近位部をコントロールする際に、下肢全体の筋緊張を緩和するため、下肢の重さをセラピストの手で支えることがあると思います。
そのため、近位部のアプローチが十分に行えないという経験をしたことがありませんか?
とりわけ、小柄な女性が大柄な男性を治療するときなどに起こりがちです。
そのような場合にレッドコードがあれば、下肢をスリングで支えておきリラクセーションを図っておけば、セラピストの両手は使いたい放題です。
以上のように、レッドコードはセラピストの第3の手として活用できるといった特徴があります。
適度に不安定な環境を作ることができる
コアトレーニンを実施するセラピストは多いと思いますが、負荷量の設定や患者様に動作をうまく行ってもらうことに難しさを感じる人も多いと思います。
その点、レッドコードではスリングを使用することで適度に不安定な環境を作り出し、無意識にコアを使用した姿勢が作れたり、運動を行ったりすることができるという特徴があります。
免荷や懸垂ができる
スリングを使用することで、免荷ができることは想像しやすいのではないでしょうか。レッドコードは100kgを超える体重を支えることができるため、体全体を吊るすことも可能です。
そのため、荷重量の調整などがスリングを使用しながら実施できます。
また、スリングを装着する場所を工夫すれば、脊柱や四肢の関節に懸垂や圧迫といった力をかける事ができます。
レッドコードが治療に効果的とされる原理
レッドコードの治療原理として、ニューラック(Neurac:Neuromuscular activation)と呼ばれる治療原理があります。これは、レッドコード発症の地であるノルウェーで作られた言葉で、「神経筋活性化」という意味です。
ニューラックにおける重要な考え方は「ウィークリンク」と「適度な不安定環境」の2つです。それぞれどのような原理なのかを解説します。
ウィークリンクとは?
ウィークリンクは運動連鎖の障害と言い換えることができます。人は活動時に数多くの筋群働かせて、運動連鎖をスムーズに行うことで安定した活動を行っています。
しかし、運動連鎖に必要な筋の機能やスムーズな運動連鎖を働かせるメカニズムの低下や不足が生じることがあります。
このような状態をウィークリンクと呼び、筋力低下や神経筋コントロールの低下、スタビリティの低下、痛みや恐怖などによって引き起こされます。
具体的に体幹トレーニングなどでダイアゴナルを例に説明します。ダイアゴナルでは、上下肢を挙上したり、支持面を不安定にしたりすることで負荷の調整を行います。
そのように、負荷を段階的に挙げていく中で、姿勢が崩れたり、震えが来たりしてしまう点がウィークリンクとなります。
適度な不安定環境における固有受容感覚の促通
レッドコードの特徴でご紹介したように、スリングを使用することで適度な不安定環境を容易に作り出すことができます。この状況により、各関節にある固有受容感覚器を刺激して、神経筋コントロール機能の向上や運動連鎖の改善を図ることができるとされています。
レッドコードの使用方法の具体例〜個別治療での方法〜
レッドコードの特徴や治療原理について解説したので、次は具体的な使用方法について紹介します。
徒手的な治療における活用法
タイトルにもあるようにセラピストの第3の手としての活用法です。前述のようにROMやストレッチ、モビライゼーションなどの際に、四肢を支える手としてや牽引をかける手として使用することができます。
レッドコードによる牽引の方法
レッドコードでは頚椎や腰椎といった脊柱に牽引をかけることでリラクゼーションを図ることができます。
牽引力は体を吊る部分とロープが吊るされている天井の位置によって調整されます。例えば、頭部をスリングで吊るした場合、ロープを天井から下ろす位置が頭側に離れるほど、頚椎に対する牽引力が強くなります。
腰椎を牽引する場合は、骨盤と下腿部をスリングで吊るして、ロープを下ろす位置を尾側に離すことで牽引力を生じさせることができます。
コアスタビリティトレーニングの方法
スポーツ選手などで活用する場合は、コアスタビリティトレーニングのために使用することがあります。
トレーニングを行う際にはニュートラルポジションから始めます。ニュートラルポジションとは腹横筋などのローカルマッスルが収縮し、脊柱のアライメントが崩れたり、頭部や骨盤が前後に変位したりしていない状態です。
まず、このニュートラルポジションを2分程度保持できることが基本となります。
そこから、ウィークリンクを意識しながら、徐々に負荷量を増やしていきます。
負荷量はスリングで吊るしている四肢を徐々に地面に設置している部分から離したり、スリングで支持しながら、バランスディスクなど不安定な床面でバランスを取ったりなどの方法を行います。
レッドコードの使用方法の具体例〜介護現場での方法〜
何度か述べたように、レッドコードは介護現場でも活用できます。実際にどのように活用するのかを紹介します。
自主トレーニングとして活用
介護現場では個別のトレーニングなどを行う人員に限られていることも少なくないでしょう。そんな場合にレッドコードは非常に役に立ちます。
例えば、立位が不安定な方で、介助なしでは立位保持が難しい方でも、レッドコードの免荷機能を活用して、スリングにより体を支えることで、セラピストや介護職員の手がなくても立位保持の練習が可能になります。
認知機能の低下などがなく、自分でコードを外すなどの行動がなければ、重度介助の方でもしっかり保持することができます。
もちろん、牽引などを活用して、ベッドでの休憩がてらリラクゼーションを図ることもお薦めです。
集団でのトレーニングにも活用可能
レッドコードは座位でのトレーニングにも応用できます。それを利用して集団体操としてレッドコードでの運動を行うこともできます。
座位では主に両手でスリングを持って運動を行います。実践してみて感じるメリットは、運動範囲を広げることができることです。
高齢者の座位から座位の姿勢保持や立ち上がり、立位保持につなげるためには、重心の前方移動(骨盤前傾、股関節屈曲)が重要になります。しかし、座位での運動では、四肢を動かすことができますが、重心を大きく移すような体操はできません。
しかし、レッドコードではスリングで両手を支えることができるため、通常の体操より、大きく重心を動かしながら運動をすることができます。
音楽などを流しながら、楽しくリズムに合わせて行うことで、集団での楽しいトレーニングになるでしょう。
レッドコードを活用して治療効果を高めよう!
最近、レッドコードは医療現場だけでなく、鍼灸院整骨院、デイサービスや介護老人保健施設など数多くの現場で活用されています。その特徴から、セラピストの治療をより効率的かつ効果的なものにするリハビリ機器と言えるでしょう。
国際的な講習会なども数多くあり、実践するための教育システムも充実しています。治療の質をより高めたい、施設で売りにするリハビリ機器がほしいと思う方は、ぜひ活用を検討されてみてはいかがでしょうか。