明日から実践しよう!高齢者に必要なシーティングの知識と技術
シーティングを行っていますか?理学療法士がシーティングを養成校で学ぶことはほとんどありませんよね。
しかし、現場に出ると意外と必要な技術ですので、困っている方も少なくないはずです。
2017年の厚生労働省疑義解釈通知では、シーティングが疾患別リハビリテーションとして認められました。
つまり、今後ますます理学療法士にとってシーティングの技術は大きな武器になるはずです。
そこで、今回は高齢者の生活の質を高めるために必要なシーティングの知識や技術についてまとめてみます。
生活全体が見えていますか?シーティングを行うために必要な考え方
シーティングを行おうと思った場合、「車椅子上での姿勢調整」をまず思い浮かべるでしょう。
しかし、シーティングを実施していく上で、知っておかなければならない大事なポイントがあります。それは生活全体を見る視点です。
車椅子上の姿勢を調整しても、それは生活の中の一部分でしかありません。
車椅子に乗る前の臥位姿勢や移乗方法が悪ければ、シーティングを行っても筋緊張や拘縮の改善はできません。
また、休息のための姿勢と食事や移動など活動するための姿勢は異なりますので、どのような活動を行うのか、どれくらいの時間姿勢を保持する必要があるのかを把握しておく必要があります。
そのため、シーティングを行う際には、対象となる方の生活全体を評価して、どのような場面でなぜシーティングが必要なのかという目的を明確にすることが重要です。
まずは全身評価から!適切なシーティングを行うための評価の流れ
「シーティングをしよう!」と考えたきっかけはなんでしょうか?
介護専門職であれば、
「姿勢が崩れるので車椅子の調整をしてほしい」
という流れが多いのではないかと思いますが、理学療法士であれば、もっと多くの理由が考えられます。
例えば、
「嚥下機能の改善をしたい」
「呼吸機能を改善したい」
「褥瘡を改善したい」
「離床時間を延ばしたい」
など様々な理由からシーティングが必要になります。
そこで、まずは改善したい機能を事前に評価しておくことが必要です。
そうすることでシーティング前後の変化を測定することができます。
本人や家族はもちろん医師や看護師、介護福祉士、栄養士といった多職種でシーティングの目的と目標をはっきり決めておき、それに必要な全身状態の評価を最初に行いましょう。
シーティングの目標や全身状態の把握ができれば、以降はシーティングに向けての評価に入ります。
以降のシーティングの流れは以下の通りです。
- 臥位での身体機能評価
- 座位での身体機能評価
- 車椅子の調整
- 車椅子座位での評価
次からは、それぞれの評価方法や調整のポイントを見ていきましょう。
理学療法士が実力を発揮!シーティングに必要な身体評価〜臥位編〜
理学療法士が様々な現場で実践するのと同様に、シーティングを行う上でもマット上で身体評価が必要となります。
マット上では重力の影響を受けにくく、広い空間で評価ができるため、身体機能の評価が正確かつ安楽に行うことができます。
最初に形態学的に異常がないか、楽に背臥位になってもらい、どの程度体を動かせるかを以下のようなポイントで評価します。
- 骨盤、脊柱の傾きや回旋
- 左右の上前腸骨棘を結ぶ線
- 肩峰を結ぶ線
- 上肢の動き
- 下肢の動き
これらのポイントで、体の捻れや傾きがあった場合、それを自力もしくは他動的に修正できれば形態学的には異常が少ないので、うまく姿勢を調整すれば車椅子上でも良姿勢をとることができると言えます。
次に評価の座位評価につなげるため股・膝・足関節を屈曲90°の姿勢で評価をします。この際、それぞれの関節可動域をチェックすることになります。
また、その状態で体幹や骨盤を動かし可動性や筋緊張、そして姿勢変化による四肢の動きの変化を評価します。
そして、適合可能な車椅子のサイズを決めていくために以下のようなポイントで身体計測を実施していきます。
- 殿部後縁〜膝窩(座面の奥行き)
- 足底〜膝窩(座面の高さ)
- 殿幅(座幅)
以上のようなポイントから、適した座面の高さや奥行き、座面の幅を決めていきます。
これらは次で説明する座位での測定を行っても良いです。
理学療法士が実力を発揮!シーティングに必要な身体評価〜座位編〜
次に座位を取った時の身体評価を行います。
この際、座位は椅子座位ではなく、マット上での端座位が望ましいです。
というのも、セラピストが姿勢や支持量を変化するのに適しているためです。
座位の評価を行う際に、最初に観察したいポイントは、どの程度、座位保持能力があるかです。
これは、マット上での評価を行う前でも簡単に評価できるHofferの座位保持能力分類という以下のような指標が開発されています。
- 座位保持能力1
端座位に座り、身体や腕を動かして安定し、30秒座位保持可能な状態。
- 座位保持能力2
身体を支えるために、両手または片手で座面を支持して、30秒間座位保持可能な状態
- 座位保持能力3
座位不可
この分類をもとに、座位でどのような評価が必要なのかを選択することができます。
例えば、座位保持能力が2や3の場合、セラピストは対象者を端座位にして、後方から支えます。
その際、セラピストの両大腿部で骨盤を挟み込み、安定させ、さらに体幹を両手で把持しながら、対象者の背部を支えます。
足底がつかなければ、足台を用意して足底接地をします。
この状態で、背部をどの程度の角度にすれば上肢の機能が維持できるか、嚥下がしやすいか、呼吸が楽にできるのなどを評価していきます。
また、体幹を把持している位置や力を変えて、脊柱の柔軟性や垂直性を評価します。
より、脊柱が垂直に安定する姿勢がわかれば、そこを支持するようなシーティングを行う目安位になります。
座位保持能力1の方であれば、よりセラピストが一般的に行うような座位リーチ能力などバランス能力の評価を行い、自力でのADL動作へとつなげていきましょう。
以上のような評価に加えて、臥位でも行ったような身体計測を行います。
臥位で紹介した目安の他に、座位では以下のような測定が可能です。
- 座面〜肘頭(アームサポートの高さ)
- 座面〜肩甲骨下角(バックサポートの高さ)
マット上での臥位、座位で身体機能評価を行えば、あとは車椅子の選択、調整になります。
実際の現場では、なかなかここまで身体機能の評価を行うことは少ないのではないかと思います。
しかし、理学療法士の専門性を発揮して、より効果的なシーティングに生かす情報を提供できるためには必要なことです。
多職種が協働するためには、それぞれ専門性を発揮する必要がありますので、是非、実践してみましょう。
高齢者の姿勢を修正するためのシーティングのポイント〜車椅子の選定〜
身体機能を評価した結果から車椅子の選択、調整をしていきます。
最初に決めるポイントとしては、ティルト・リクライニングにすべきかどうかです。
全体像から身体機能を含めた評価において座位姿勢そのものが難しい方に関しては、ティルト・リクライニングを使用しなければなりません。
ある程度、背部での支えがあれば座位の姿勢が可能で、その他の全身状態も良好であれば、標準型車椅子を選定しましょう。
高齢者に多く見られる姿勢の崩れとしては以下の点が挙げられのではないでしょうか。
- 仙骨座り(すべり座り)
- 斜め座り(骨盤の傾斜)
これらを解決していくことが重要なポイントになります。
どちらにせよ、体格にあった車椅子を使用しなければ、上記のような姿勢を改善することは難しいので、身体測定をした結果から、身体にあった車椅子のサイズを決めましょう。
車椅子サイズの目安は以下の通りです。
- シートの幅:殿幅+3cm(殿部の左右に両手が入るくらい)
- シートの奥行き:殿部後縁〜膝窩+2〜3cm(足こぎの場合は+5cm)
- シートの高さ:足底〜膝窩+クッションの高さ(フットサポートに足を乗せる 場合は+4cm)
- アームサポートの高さ:座面〜肘頭+クッションの高さ
- バックサポートの高さ:肩甲骨下角より下(ただし座りやすさを重視する場合はその限りではない)
- 車輪の大きさ:車輪大で推進力アップだが小柄な方は操作しにくい
- 車輪の位置:肩関節より車軸が前の方がこぎやすいが、後方への転倒リスクが高まるので、転倒予防装置などで対応必要
以上のような目安をもとに車椅子のサイズを選択、調整しましょう。
これらのポイントをしっかり考慮するだけでも、仙骨座りや傾きの修正が可能な場合もあります。
例えば、シートの奥行きが長すぎる場合やフットサポートの高さが高すぎる場合は、仙骨座りを招きます。
その場合は、車椅子のサイズそのものが合っていないことが原因ですので、調整することで改善ができます。
高齢者の姿勢を修正するためのシーティングのポイント〜クッションやバックサポートの調整〜
次に、クッションの選定を行います。
シートはスリング状になっており、たわみやすいため骨盤の傾きが容易に生じて不良姿勢の原因となります。そのため、クッションの使用は必須です。
クッションは、ウレタン、ゲル、エアーなど様々な素材の物が開発されています。
それぞれ、厚みや幅などの形状の違いから、耐久性や耐圧分散、通気性などの機能面の違いがあります。
理学療法士としては、全体状態(特に褥瘡の有無)や座位保持能力などをしっかり評価し、福祉用具専門業者と連携して、適切な機能を有するクッションを選定することが重要です。
また、場合によっては商品の機能だけでは不十分な場合もあります。
その場合は、タオルやウレタン材などを使用し、部分的な調整が必要です。
例えば、骨盤の傾きがある場合に、傾きを解消するために座面の半分にウレタンチップなどを敷き、骨盤を水平位修正することで、姿勢が安定する場合もあります。
もちろん、素材の耐久性などを考慮して、適宜介入しなければいけません。
また、シーティングに重要な部分として、バックサポートを代表とする背部支持面の調整があります。
この場合、座位評価の際に、背部からのサポート量や位置を変えたことで得られた情報をもとに背張りの調整を行います。
高齢者の仙骨座りを改善するためには、骨盤を正中位に保ち、脊柱が生理的な弯曲を保つことが重要です。
そのため、基本的には骨盤の位置を決めて、脊柱の弯曲に合わせて背張りを調整します。
しかし、評価結果において円背のため脊柱の可動性が少ない場合は、弯曲が出しにくいため、胸椎部分を緩めるなどの工夫をしながら調整をしていきましょう。
また、腰椎の生理的前弯=良姿勢ということでランバーサポートの使用が言われますが、骨盤が正中位になり、胸椎の伸展ができれば、腰部は自然と前弯していきます。
逆に腰部のみ整えても、他の部分がうまく適合していなければ、姿勢は崩れていきます。
そのため、対象者の骨盤・脊柱の可動性、支持面による変化などを評価し、どこを支持していくかを決めていきましょう。
また、クッションの際と同様に、背張りだけでは難しい場合はタオルやクッションを使用しての調整が必要です。
以上のように、理学療法士の専門性を駆使して、車椅子を適合とともに、クッションや背部の調整を含め、高齢者のシーティングを行っていきましょう。
調整すれば終わりじゃない!?結果の判定と改善をしっかり行おう
実際にシーティングを実践した後はその結果、最初に多職種で立案した目標が達成しているかを再評価する必要があります。
さらに、高齢者の状態は常に一定ではありません。
そのため、調整した結果が保たれているかを観察していき、修正点が見つかれば、適宜改善していかなければなりません。
とりわけ、理学療法士は職務の都合上、生活の一部分しか見ることができないことが多いですので、多職種からの情報収集が必要になります。
また、タオルなどの備品を使用している場合は時間の経過とともに、形状が保てなくなってしまいます。
あくまで一時的な効果として使用して適宜調整し直す必要があります。
備品が揃っていない施設などでは、この「一時的な変化」を根気強く出していくことで、最新の車椅子導入につながるというケースもあります。
道具が揃っていないからと諦めずに、シーティングを実践していきましょう。
あらゆる場面でのシーティングで、理学療法士の専門性を存分に発揮しよう!
シーティングは理学療法士だけでできることではありません。
多職種の知識や技術の結晶が結果として現れます。
ですが、理学療法士の専門性は間違いなく必要になります。
適切な身体機能評価とその結果をどのように反映させていくかをしっかりと身につければ、どの分野や病気においてもシーティングの実践ができるはずです。
今回、お伝えしたことは現場で実践するための基本的な知識や技術です。
これから、様々な症例を重ねることで、一人一人にあった姿勢の調整を身につけていきましょう。