女子バレー長岡望悠選手の左膝前十字靭帯損傷:復帰までのリハビリを予想する
2018年12月、左膝の検査を受けるため、イタリアから帰国した長岡望悠選手。
診断名は左膝前十字靱帯損傷、全治8カ月という見立てでした。
本来なら2019年8月には復帰出来る見込みでしたが、代表候補には選ばれておらず。現在もリハビリ中であると報道されています。
現在、復帰に向けてリハビリに取り組んでいる長岡選手が、どんなリハビリをしているのか?その予想をしていきたいと思います。
怪我の原因
ラグビーやサッカーといった、コンタクトスポーツでの怪我が多くを占めています。
原因として、ジャンプ後の着地、走っている際の急激な方向転換・ストップ動作、相手との衝突などによって、膝関節に過度の前方外力や回旋力が加わる事で受傷します。
受傷直後は「ブツッ」という断裂音がした、と話す選手が多く、検査をしなくてもある程度の目星がつく事が特徴です。
バレーは、体同士が衝突する事が少ない競技です。そのため、ジャンプ動作や切り返し動作の反復で徐々に靭帯が損傷し、今回の受傷に至ったと考えられます。
膝前十字靭帯損傷とは?
前十字靭帯とは、膝関節の中で大腿骨と脛骨をつないでいる強力な靭帯です。
その役割は、主に大腿骨に対して脛骨が前へ移動しないように制御する機能と、捻った方向に対して動きすぎないように制御する2つの機能があります。
その他、膝の後方に付く後十字靭帯や、左右に付く側副靭帯とともに膝を支える役目を担っています。
そのため、前十字靭帯が損傷すると膝の前方の支えと、膝を捻る際の支えが不十分となります。
そうなると“膝崩れ”や“ロッキング”といった症状が出てきます。これらがスポーツをする上で、大きな障害となります。
症状
膝関節周囲の熱感や腫れ、痛みが主な症状です。時間経過とともに、この症状は治まってきますが、損傷した靭帯は自然に治らない事がほとんどです。その後生じるのが、上述した“膝崩れ”や“ロッキング”です。
膝崩れ
膝を曲げていく中で、一定の角度になると、急に力が入らなくなり崩れるような姿勢となります。「膝が抜ける」と表現される事が多い症状です。
→靭帯が修復されない限り症状は続くため、適切な治療が必要となります。手術をしない場合、周りの筋肉で補助するためのリハビリ、またはサポーターなどでの固定が必要となります。
ロッキング
膝崩れとは逆で、膝崩れが起きないように過度に膝を後ろに反らせる姿勢を取ります。そうすると、靭帯で支える必要が無くなり骨と骨同士で身体を支える事ができるようになります。
→動作を続けていくと、骨同士で支える動作が定着し、膝を曲げれなくなってきます。そのため、どちらにせよ治療の必要があります。
治療方法
大きく分けて、保存療法と靭帯再建術といった手術を行う2つがあります。
保存療法
保存療法は、高齢者や今後運動をする機会が少ない方、合併症などにより手術自体が困難な方で選択されます。
この場合、受傷直後は膝に体重をかけたりせず安静に過ごします。
その後、痛みが引いてくれば膝に負担が掛からない方法を、リハビリや院内パンフレットなどで指導を受け退院となります。
予後として、普段の生活が問題なく行える方も多いです。ただ膝崩れ、またはロッキングの動作は無くならないため、普段と違う動きをした際に転倒などの危険性は残したままとなります。
遊び程度の運動であれば可能ですが、ジャンプやダッシュなどを伴う運動はほぼ困難となります。
靭帯再建術
成人やスポーツ選手であれば、基本的に医療機関を受診すると、手術を勧められます。
方法としては、自身の別の部分の靭帯を使用し、採取した靭帯を前十字靭帯に付着させる方法になります。文献によると、この方法であれば90%以上の方が競技に復帰できる可能性があるとの事でした。
復帰できていない原因とは!?
上述したように、長岡選手は今後も競技への復帰を目指している事を考えると、靭帯再建術による手術を行ったと考えられます。
日本代表レベルの選手の手術となれば、日本屈指のスポーツ専門医が手術を施行しているはずです。術後経過が悪い、といった事は考えずらいです。
また筋力量や術後疼痛に関しても、術後の期間を考えると手術前の状態に戻っている可能性が高いです。
そのため、復帰できない問題点としては、“パフォーマンス能力の低下”または“膝関節の不安定さ”が残存しているのではないかと推察します。
長岡選手へのリハビリ方法とは!?
パフォーマンス能力の低下
パフォーマンス能力の低下とは、バレー特有の動きに対する機能が低下している事を指します。
筋肉には特異性の原則と言われる原理があり、トレーニングの種類によって筋肉の付き方が変わります。
そのため、基礎的な筋力トレーニング+バレーの動きに合わせたトレーニングを行う事が重要です。
スクワットで太腿の筋肉を動かしたあと、アタックの練習を反復する、などが効率の良いトレーニングです。
また通常のアタック、クイック、バックアタックなど、試合で実際に使う動きを反復する事で、実用的な筋肉を鍛える事が出来ます。
膝関節の不安定さ
この要因は筋力低下や柔軟性低下など様々ですが、スポーツ選手に起こりやすい要因は、固有感覚の低下です。
固有感覚とは、関節の位置や動きを感じる感覚です。
スポーツ選手レベルになると、ジャンプする際の膝の曲がり具合がいつもと違う、といった違和感を敏感に感じ取ることができます。
この敏感さがゆえに、動きの繊細な微調整が必要になります。
そのため、ジャンプをする際の膝に不安定さがあるのであれば、5度単位で角度を変え、選手とフィードバックを行います。
選手が「ここで1番力が発揮できる」と、感覚として感じ取れるまで、動作修正を行う事が重要です。
まとめ
長岡選手が、どんな状態でリハビリを行なっているのかを予想してみました。
前十字靭帯損傷はスポーツで良くある症例ですが、術後のリハビリがとても重要となります。
膝崩れやロッキングを防ぎながら、競技レベルでパフォーマンスが発揮できるまで、細かい修正を行っていく作業がとても大変です。
テレビで活躍される裏側には、様々な見えない苦労があるという事ですね。
(参考文献)
ネッター解剖学アトラス:相磯 貞和
標準整形外科学:達野 勝彦
スポーツ外傷・障害に対する術後のリハビリテーション:内山 英司