近年増加してきている低出生体重児とはどのようなリスクがあるのか?
日本の新生児の割合は年々減少してきており、一人の女性が生涯子どもを出産する割合を示す出生率は1.42(2018年)となっています。
もはや一人の女性が生涯にかけて一人出産するかしないかという状況になってきているということが言えます。
出生率が低下すれば当然新生児の数も減少するので、その分障がいを抱えるお子さんの出生数も少なくなりそうですが、最近は周産期医療の発達に伴い低出生体重児が増加傾向にあるため、新たな障がい像をもった新生児が多くなってきています。
今回は近年増加してきている低出生体重児とはどのようなリスクがあるのか紹介していこうと思います。
低出生体重児とはどういった新生児なのか
低出生体重児は厳密には3つに区分されます。
「低出生体重児」は2500g未満で出生した新生児のことを指します。
また、1500g未満で出生すると「極低出生体重児」と言われ、さらに1000g未満で出生すると「超低出生体重児」と言われます。
以前は小さく出生した新生児のことを未熟児と表現していましたが、現在は小さく生まれて体重が少ないことを未熟な状態とするのではなく、在胎期間が短いことが様々なリスクの可能性が考えられるとなってきています。
在胎37週から41週で出産した場合は正期産といわれ、それ以前に出生した場合は早産と表現されます。
早産になった場合は低出生体重児になりやすい傾向がありますが、在胎28週以前に出生すると1000g未満の超低出生体重児となるリスクが高まります。
なぜ低出生体重児が増加してきたのか?
以前はそれほど周産期医療が発達しておらず、早産で出産すると救命する確率が低かったため低出生体重児の数は少数でした。
しかし、近年は周産期医療が急速に発展してきたため、在胎週数が少なく小さく生まれてきても母子ともに助かることが多くなってきています。
出産が今も昔も母子にとって大変なことであることに変わりはありませんが、出産において母子ともに命が助からないということは少なくなってきているということですね。
そのため、出生率が低下して新生児の数が減少してきても低出生体重児の数は増加してきています。
低出生体重児が増加してきている背景には、周産期医療の発達により母子ともに救命される確率が高くなってきたことが影響しているわけです。
低出生体重児とはどのような症状が見られるのか
では低出生体重児にはどのような身体症状が現れるのかというと、身体の「低緊張」状態が見られる子どもたちが多い傾向があります。
もちろん低出生体重児だからといってすべての子どもが低緊張状態になるわけではありません。
確率として四肢・体幹の筋が低緊張状態になりやすいということですね。
筋の低緊張状態とは、脳性まひのように手も足も筋緊張が高く、立ち上がりや歩行時に足が突っ張ってしまうといったような症状ではなく、四肢・体幹のいずれの筋もだらんと力が入らないような状態になってしまい、重力に逆らって身体を動かすことが難しくなります。
四肢・体幹の筋が常にこのような状態になってしまうので、身体運動発達が遅れてしまいやすい傾向があります。
また、注意欠陥・多動性障害や自閉症スペクトラムといったいわゆる発達障害のリスクも高くなります。
なぜ筋の低緊張状態がみられたり、発達障害のリスクが高くなったりするのか
なぜ四肢・体幹の筋の低緊張状態が見られるのかというと、実は体重が少ないこと自体が問題になるわけではなく、在胎期間の短さが発達に大きく関与します。
実は大部分の胎児は、在胎期間28週までには外の世界で生きていくための基本的な機能が出来上がります。
外の世界で生きていくための機能とは、肺や心臓などの内臓機能や脳や脊髄などの中枢機能のことを指します。
では在胎28週以降は何が形成されるのかというと、主に身長や体重が急激に増加し脂肪などが形成されます。
しかしこの急激な身長と体重の増加が発達において重要で、身長と体重の増加に伴い徐々に狭くなる胎内環境で丸まった姿勢を持続的にとることで、外界に出てもすぐに動けるような筋緊張が形成されるのです。
低出生体重児は、こういった急激な身長と体重の増加による持続的な屈曲姿勢をとる経験がないまま出生するので、重力下に出てもスムーズに動くための適度な筋緊張が形成されにくくなってしまいます。
また、胎内環境は胎児にとってとても快適な環境であり落ち着いて過ごすことができます。
低出生体重児は、出生直後すぐにNICUにて身体管理を行う必要がありますが、どんなに快適な環境を作ろうと思っても胎内環境ほどの快適な環境で過ごすことは難しくなります。
呼吸管理や点滴などの様々な管理を行う必要性がある場合もあり、前述のように思ったように身体を動かすことが難しいので、低出生体重児の子どもにとってはストレスを感じやすくなってしまいます。
出生後のこういった環境面の問題と、周産期に伴う脳へのダメージのリスクにより、低出生体重児は発達障害になる確率が高くなってしまいます。
そのため、NICUではできるだけ新生児がストレスに感じないように胎内環境に近い環境設定を行うようになっています。
どのような治療を行い、その後のフォローは行われるのか
出生直後はすぐにNICUにて身体管理がなされます。
低出生体重児はそのほとんどが正期産よりも早く出生するため、NICUは胎内環境に近い環境で愛護的にケアが行われます。
前述のように身体の筋の低緊張状態が見られ重力に抗って動くことが困難なので、胎内環境に近い丸まった屈曲姿勢でポジショニングを行います。
このポジショニングもずっと同じ姿勢ではなく、背臥位・側臥位・腹臥位それぞれで全身屈曲姿勢をとれるようにポジショニングを行います。
屈曲姿勢をとることで体幹中枢部の活動性が促され、次第に重力下でも身体を動かすことが出来るようになります。
また、屈曲姿勢は新生児にとって落ち着きやすい姿勢なので、精神的な安定性も得られやすくなります。
NICUでの管理がなされた後は、それぞれの地域の療育施設や一般病院に引き継がれ在宅生活に移行していきます。
全身的な低緊張状態が見られることが多い低出生体重児ですが、中枢性の疾患(脳性の疾患)などを合併していなければ、運動発達が遅れながらも歩行ができないということは少ない傾向があります。
各家庭で在宅生活を行いながら、地域の一般病院や療育施設で普段の日常生活の援助が行われ、急性期病院でのフォローは月に1回程度の発達検査などが行われます。
ただ、中には経管栄養や酸素療法などの医療的なケアが必要な身体的に重度な子どもも見られるので、場合によっては訪問看護や訪問リハビリテーションなどの支援が行われることがあります。
おわりに
近年の小児リハビリテーションの対象となる疾患は、脳性まひなどの従来の疾患も含め低出生体重児が増加してきたことでその対象となる病態が変化してきていることが特徴です。
早産で生まれてきても救命されることが多くなりましたが、その分低出生体重児が増加し様々な障がいを抱えてしまうリスクも増加してきています。
低出生体重児の身体的な特徴は、全ての子どもに見られるわけではありませんが、胎児期に十分に屈曲姿勢をとることで筋緊張のバランスを調整する経験が少ないために全身が低緊張状態になりやすくなります。
全身が低緊張状態になることで、重力に逆らって身体を動かす経験が少なくなり結果的に運動発達が遅れてしまったり、運動全般が苦手になってしまったりします。
また、低出生体重児であるということにより運動面だけではなく、知的・情緒・社会性の障がいである発達障害のリスクも高くなります。
低出生体重児はただ単に早く産まれてきて体重が軽い状態になるだけではありません。
こういった症状が見られるということをしっかり把握することで、低出生体重児について理解しやすくなると思います。
参考文献
子どもの理学療法 第1版
胎児のはなし 第1版