妊娠しているときからすでに子どもは発達している?子どもの胎内発達について知ろう!
赤ちゃんは、妊娠しているときよりも出産してからの発達のイメージが強いため妊娠期間中の発達はあまり印象がないかもしれません。
しかし、赤ちゃんの発達は出生後からの発達だけではなく、実はお母さんのお腹の中にいる時期から運動発達は始まっており、妊娠中(胎児期といいます)の発達を知ることで赤ちゃんの発達をより理解しやすくなります。
そこで今回は妊娠の時期(胎児期)の発達について考えていきたいと思います。
胎児期の発達は出生後の発達にどのように影響するのか?
前述したように、赤ちゃんの発達というと産まれてきてからの発達は世間的にも多く取り上げられていますが、実は赤ちゃんの発達は卵子に精子が結合するいわゆる受精するときからすでに始まっています。
もちろん出生後の発達もその後の発達に影響しますが、出生後の発達と胎児期の発達は互いに大きく関わっており、胎児期の発達を知ることでより出生後の赤ちゃんの発達が分かりやすくなります。
では実際に胎児期はどのように運動発達をしていくのかというと、まず、妊娠の初期から在胎28週(大体妊娠7ヶ月ごろ)までは生きていくために必要な機能が徐々に出来上がっていきます。
生きていくために必要な機能とは、心臓や肝臓などの内臓機能や、脳・脊髄などの中枢機能、そして聴覚・視覚・触覚などの感覚機能のことで、出生してから重力下という外の世界で人として最低限生きていくための機能のことを指します。
つまり、受精してから妊娠7ヶ月頃までにはすでに重力下の環境で生きていくための機能はほぼ出来上がるということですね。
ただ、重力下で生きていけると言ってもこの時期で出生してしまうとその後の発達に大きく影響を与えてしまうリスクがありますし、正常に近い運動発達が起こりにくくなってしまうリスクもあります。
妊娠7ヶ月までは主に内臓・中枢機能といった重力下における最低限の機能が発達しますが、体重と身長といった筋量を始めとした機能はさほど発達しません。
では、体重と身長はいつから増加してくるのかというと、妊娠7ヶ月から在胎40週(大体妊娠10ヶ月)までの期間に体重と身長が急激に増加します。
生きていくためには体重と身長の増加はそれほど必要ないのではないかと思うかもしれませんが、この身長と体重の増加に伴う筋量の増加が重要で、この妊娠7ヶ月から10ヶ月までの時期に胎内で過ごすことが出生後の発達に大きく影響します。
妊娠後7ヶ月前後までは比較的身長・体重の増加は緩やかなので、胎内にいる胎児も子宮内の空間に余裕があるため自由に手足を動かしながらまるで宇宙という無重力空間にいるように自由自在にぐるぐると動くことができます。
自由に身体を動かすことが出来るので、上肢も下肢も活発に動かすことができ指しゃぶりをしたり、手で自分の足を触ったり、あるいは足の指を口まで持ってきたりなどの自分の身体を触れる機会も多くなるので少しずつ身体のイメージを形成されていきます。
つまり、妊娠7ヶ月前後までの自由な身体の動きにより、自身の身体の概念(ボディイメージ)を自然と学習し基礎的な身体運動発達を形成していくわけですね。
それに対して妊娠7ヶ月から10ヶ月までの期間は、7ヶ月までの発達と違い体重と身長が急激に増加するので、胎児にとって徐々に子宮内が狭くなってきて限られた空間での窮屈な活動になってきます。
狭い空間で姿勢保持や身体運動を行うために、徐々に胎児の姿勢は体操座りのような下肢と体幹を屈曲した姿勢になっていきます。
ただ、この時期も妊娠7ヶ月までの上肢と下肢と同様に身体活動が活発に行われるので、体操座りのような屈曲姿勢のまま胎内の内壁を押したり蹴ったりするような動作が主体になってきます。
7ヶ月頃のときほど手も足も関節の可動域いっぱいに自由に突っ張ったり回転したりすることは難しくなりますが、母親の胎内の内壁を押したり蹴ったりすることで自分たちが重たいものを押すときのように、持続的な筋収縮が筋に促され体幹中枢部(主に腹部筋)の筋活動が活発になります。
このような活動を7ヶ月から10ヶ月前後まで常時行うことで、これまでと違った筋活動を学習し胎児は体操座りのような屈曲姿勢を保ったまま出生します。
出生後は、今までの胎内環境のように無重力のような空間ではなく重力が赤ちゃんにかかるようになります。
赤ちゃんはいきなり重力がかかった環境では思うように動くことは難しいですが、胎内で持続的な体幹中枢部の筋活動を経験していたおかげで、いきなり産まれてすぐに重力のかかる環境に出てきてもある程度自由に手足を動かすことができるというわけです。
胎内において筋繊維はどのように発達していくのか?
では、筋繊維自体の発達は人の発達において重要な位置を占めますが、どのようにして胎内発達において発達していくのでしょうか。
胎内時期における筋繊維の発達は受精した時点から起こり始めますが、妊娠初期の頃はまだこれといった筋繊維の発達は見られません。
在胎11週頃になるとようやく早期の筋繊維が見られるようになってきて、在胎20週頃にはすでに形状は一般の成人の筋繊維と同様に発達していきます。
筋繊維のタイプ別に胎内発達を見ていくと、初期の頃の筋繊維の発達においてはタイプⅠ繊維(いわゆる遅筋線維)と呼ばれる持続的に姿勢を保持するための内在筋繊維が発達します。
在胎26週頃になると、今度はタイプⅡ繊維(いわゆる速筋線維)と呼ばれる瞬間的に力を発揮するための筋である表層筋繊維が発達してきます。
筋肉への神経支配は在胎20週頃から24週頃に始まります。
初期は非常に多くの神経細胞がシナプスを形成し、複数の筋繊維をつなげていきます。
しかし、一つ大きな運動軸索と筋繊維間のつながりが強くなると、他の弱いつながりの筋繊維はなくなっていきます。
このようにして運動頻度の強い筋繊維は残り、必要性の低い運動繊維は徐々になくなっていく「刈り込み現象」という状態が起こります。
残った筋繊維はさらにその形状を変化させてより結合を強めていきます。
このようにして複雑で多様な筋活動から、必要性の高い筋活動へと淘汰されていく現象が筋繊維の胎内発達においても起こっているというわけですね。
まとめ
妊娠7ヶ月から10ヶ月の間の急激な身長と体重の増加に伴う筋量の増加・持続的な筋活動により、胎児は体幹中枢部の筋の活動性が引き出されていきます。
この持続的な筋活動によりいきなり重力下という環境に出てきても重力に逆らって自由に動くことが可能で、身体的にも精神的にも安定して姿勢保持を行うことが出来ます。
そして徐々に重力下における身体活動に慣れてくると、今度は様々な身体動作(胎内という無重力に近い環境において自由に手足を動かしていたときのように)が可能になってきて首が座り寝返りや腹臥位などといった姿勢・動作が出来るようになってくるのです。
お母さんのお腹の中にいるときから赤ちゃんは重力下という環境に適応するための準備をしており、自然と産まれたときから身体運動が発達するように妊娠期間中も絶えず動いているということですね。
このように胎内における発達を知ることも、正常発達を知るうえでとても重要なことです。
胎内発達を理解し、産まれたあとの赤ちゃんの発達との関わりをイメージしていきましょう!
(参考文献 )
正常発達 第1版 脳性まひ治療への応用
正常発達 第2版 脳性まひの治療アイデア