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COP変位から見る外反母趾のバイオメカニクス的考察

COP変位から見る外反母趾のバイオメカニクス的考察

中高年以上の女性を中心に外反母趾はよく見られる疾患の1つです。

内側アーチの低下から様々な症状を引き起こします。

では外反母趾とは何故出来上がるのでしょうか。

バイオメカニクスの観点から考えてみたいと思います。

外反母趾の概要

外反母趾とは第一中足骨が内反し、MTP関節が外反している状態を指します。

MTP関節の部分で靴に接触し、痛みが生じることが主な症状です。

関節が変形するだけでは痛みを生じることはあまりなく、靴に接触している部分の滑液包が炎症を起こすことで痛みが生じます。

これをバニオンを呼びます。

バニオンによる痛みが常時あり、痛みが引かない場合には手術が適応となります。

また、手術でなくとも装具やインソールで痛みの低下が得られる場合には装具による矯正が適応となります。

なぜ外反母趾が出来上がる?

外反母趾患者のCOP変移の特徴から考えてみたいと思います。

歩行動作を見た時、正常であれば踵接地で踵骨が回内し、衝撃を吸収します。

その後、COGが前方へ変移すると共にCOPも前方へ移動していきます。

この時、足部は身体を十分に支えられるよう剛性を高めるため踵骨が回外していき、それとともにCOPも外側へ移動します。

このように5列を通る形でMStからTStへ移行していきます。

TStでの蹴り出しの際、力強く蹴りだすためにCOPは内側へ変移していき、母趾球で蹴り出しが行われます。

これが一般的な歩行時のCOP変移です。

これが外反母趾患者になると、まず踵骨の回内までは同様です。

しかしその後5列上をCOPが移動せず、一直線に母趾球の方へ移動していきます。

そのままTStを迎え、蹴り出しが行われます。

このようなCOP変移では足部の合成が確保されず、足部でのバランスが取れなくなります。

そのため足部を外転させる形でバランスを取ろうとします。

足部外転により内側縦アーチが潰れ、母趾屈筋の機能不全が引き起こされます。

さらに足部外転により、母趾MTP関節に外反ストレスがかかります。

以上の理由により、外反母趾が引き起こされるものと考えられます。

 

つまり、内側縦アーチの低下が着目されやすい外反母趾ではありますが内側縦アーチの低下は結果であり、原因は外側縦アーチの機能不全によるところが多いです。

なぜ外側縦アーチの機能不全が引き起こされるのか?

外側縦アーチの要石は立方骨であり、踵立方関節を下から支える長腓骨筋が重要となります。

長腓骨筋は踵骨の外側を回り込み、立方骨の下を回り込む形で立方骨を引き上げます。

それにより、踵立方関節が安定します。

つまり、長腓骨筋の機能不全がそのまま外側縦アーチの機能不全へとつながります。

 

また、踵立方関節が安定することで立方骨を起始とする足部内在筋の筋発揮が向上します。

特に短母趾屈筋は内側縦アーチを構成し、母趾内転筋は横アーチを構成する筋の一つです。

荷重時に働くためには立方骨の安定性が不可欠となります。

このように長腓骨筋には足部内在筋を働きやすくするという間接的作用があります。

長腓骨筋の機能不全が外側縦アーチだけでなくその他のアーチ機能の機能不全まで引き起こす可能性があります。

外反母趾患者の長腓骨筋機能はなぜ低下する?

先行研究により、外反母趾患者の中殿筋筋力を検査したところ外反母趾患者では中殿筋の筋出力が低下し、また健常者と比較してHC時の中殿筋収縮において遅延が見られています。

HC時に中殿筋による遠心性収縮が得られないため、股関節は安定せず骨盤の外側Swayが生じます。いわゆるトレンデレンブルグ歩行です。

COGが外側により、股関節の安定性を欠いた状態では下肢は十分な機能を果たせなくなります。

近位部の安定性を欠いている状態では遠位部の筋発揮が十分に行えないのですがそれでも足部としては体重を支えないといけなくなります。

そのため長腓骨筋に過剰な負荷がかかってしまいます。

繰り返される過剰な負荷により長腓骨筋は筋緊張が増加し、機能不全へとつながっていきます。

長腓骨筋の機能不全により外側縦アーチも機能不全を引き起こし、外側では体重を支えることができなくなります。

そのため体としてはCOGの外側変移を止めようとします。

これによりCOGを無理に内側へ寄せようとするため、上述した足部の外転、COPの内側への変移が生じます。

このようにして外反母趾が生じると考えられます。

 

以上の理由から、外販母趾患者では足部だけでなく、中殿筋を中心とした股関節・体幹機能の評価を進めていく必要があると考えられます。

まとめ

外反母趾についてバイオメカニクス的観点から説明させていただきました。

長くなりましたが外反母趾とは股関節・体幹機能の低下を足部が代償した結果にすぎず、外反母趾だからと言って足部ばかり着目していると患者さんの状態は改善しないことが多いです。

この記事が少しでも参考になれば幸いです。

 

(参考文献)

着地動作時の後脛骨筋・長腓骨筋・中殿筋の筋活動開始時間 阿久沢弘 他

外反母趾患者の運動機能病態の力学的計測と解析 金承革 他

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