デュシェンヌ型筋ジストロフィーとは?リハビリテーションの役割について
デュシェンヌ型筋ジストロフィーは、先天的な筋疾患である筋ジストロフィーの中でも最も代表的な型の筋疾患です。
その病態は出生時から成人にかけて大きく変化するので、各時期においてライフスタイルに合わせた身体的なケアが必要になります。
現在までその治療法は確立されておらず、現状病態に合わせた対処的な治療を行うことがほとんどですが、その中でリハビリテーションの役割は大きな位置を占めています。
今回は、デュシェンヌ型筋ジストロフィーとはどのような疾患か、そしてリハビリテーションの役割とは何かということについて考えていきたいと思います。
デュシェンヌ型筋ジストロフィーの病態とは
デュシェンヌ型筋ジストロフィーは、全身の筋の筋力低下を主症状とする遺伝性の疾患です。
筋力低下は幼少期から成人になるに従い徐々に見られるようになり、やがては歩行が困難になり車いすでの生活になっていきます。
もっと詳しく説明すると、人の骨格筋(筋)は定期的に壊死と再生を繰り返すことで適度な筋力を保っているのですが、デュシェンヌ型筋ジストロフィーの方は、この壊死と再生が過剰に起こってしまうことで逆に筋に負担がかかり過ぎてしまう状態が持続し、筋力が徐々に低下していきます。
つまり、健常者の筋は適度に筋の壊死と再生が繰り返されるのですが、筋ジストロフィーの方はその頻度が過剰過ぎて筋肉が正常に保てないということですね。
デュシェンヌ型筋ジストロフィーの原因
筋肉内におけるジストロフィンという遺伝子が欠損していたり、逆に重複していたりすることで発症します。
出生した子どもが男子であった場合に筋力低下などの症状が見られ、出生した子どもが女子の場合は症状が見られず、その変異したジストロフィンの遺伝子を保因する形で遺伝していきます。
保因者である女性が妊娠するとデュシェンヌ型筋ジストロフィーの男子を出産するリスクが高まりますが、必ずしも出生した男子が筋ジストロフィーになるわけではありません。
どのように症状が進んでいくのか
出生後はしばらく健常者と同じように運動発達が見られます。
そのため、デュシェンヌ型筋ジストロフィーだからといって歩くことができないという子どもはほとんどいません。
ただ、歩き始めるまでの時期が少し遅れる傾向はあり、健常児と比較すると2~3ヶ月は遅れて歩行を獲得することが多いです。
その後、5歳ごろまでは筋力も向上していき、走ったりジャンプしたりといった筋力を要求される運動も行うことが出来るようになります。
このように、出生してから5歳ごろの時期までは他の健常児と比較してもそれほど運動機能に差はないので、デュシェンヌ型筋ジストロフィーと気づかれることは少ない傾向があります。
5歳ごろを過ぎると、運動能力のピークをむかえてそれ以降は緩やかに筋力低下などの症状が進行していきます。
この頃になると転倒しやすかったり、走ることが極端に遅かったりすることで病院を受診し、筋生検(筋を直接少量採取すること)や血液検査による炎症反応の過剰などによりデュシェンヌ型筋ジストロフィーと診断されることが多くなってきます。
ほとんどはそのまま普通小学校に入学しますが、運動能力の低下に伴い関節拘縮や側弯が出現してきます。
こういった症状の進行が続き10歳から12歳までの時期には歩行が不可能になり、その後は車椅子上での生活になっていきます。
歩行能力を喪失する時期から呼吸不全や心筋症といった内臓関連の筋力低下が見られ始めますが、まだ歩行が不可能になる時期はこういった内臓機能関連の症状がほとんどみられません。
こういった合併症は、症状として現れにくい反面潜在的に緩やかに症状が進行していくので、この時期から定期的に検査を行うことが重要です。
以前は呼吸管理がなされていない事が多かったため、自然経過による生命予後は10歳代後半でしたが、最近のデータ(2014年)では30歳を超えるようになってきています。
どのような合併症があるのか
デュシェンヌ型筋ジストロフィーは四肢・体幹の筋力低下が主症状ですが、その他にも様々な合併症が見られます。
以下に主な合併症についてまとめていきます。
変形や側弯
各関節の変形はほとんどのデュシェンヌ型筋ジストロフィーの子どもに見られ、側弯は70%の子どもに見られます。
多くの子どもが歩行不可能になる時期に症状が出現・進行するため、歩行がまだ可能な時期からのレントゲン等による整形受診が重要です。
変形は足関節から出現し、膝・股関節の下肢の各関節から上肢の各関節へと変形が進行していきます。
発達障害
筋力低下が主に見られることから精神的な部分は見落とされてしまいがちですが、ジストロフィンタンパク質は神経細胞にも発現しており、その欠損に伴う脳機能障害を引き起こします。
そのため、脳機能障害に伴う知的障害や広汎性発達障害、学習障害などの学習・社会性の問題が見られます。
ただ、全てのデュシェンヌ型筋ジストロフィーの子どもに見られるわけではなく、約3分の1は発達障害のリスクがあると考えられています。
呼吸機能障害
歩行が不可能になる時期から呼吸機能にも障害が見られるようになってきます。
呼吸を行うためにも呼吸筋が関わっており、この呼吸筋が筋力低下を引き起こすことにより肺と胸郭の可動性と弾力を維持できなくなってきて肺炎になるリスクが高くなってきます。
酸素の取り込みが十分になされなくなってくると人工呼吸管理となっていきます。
心筋症
呼吸機能と同様に心臓機能も心筋の筋力低下に伴い心不全などの症状が見られるようになってきます。
現在のデュシェンヌ型筋ジストロフィーの死亡の原因はほとんど心不全となっており、新機能を代償する治療法は現在のところ確立されていません。
リハビリテーションの役割とは?
リハビリテーションの中では早期から理学療法士が介入することがほとんどです。
デュシェンヌ型筋ジストロフィーは筋力低下が徐々に進行していく疾患なので、リハビリテーションの適応なのか分かりにくい部分もありますが、各時期に合わせた適切な身体活動の指導やケアはとても重要です。
基本的には安静にしすぎてしまうことによる筋力低下(廃用性の筋萎縮)と、運動量が多すぎることで負荷がかかりすぎてしまうことによる筋力低下(過用性の筋萎縮)をできるだけ予防していくことが必要です。
そのため、理学療法士による各時期に合わせた日常の運動量の設定と、変形・側弯の進行を予防していくために運動療法を行うことは必要不可欠です。
このように、適切な運動量の設定と変形・側弯の予防のための運動療法を行うことで、四肢・体幹の筋力低下に伴う身体動作能力の低下をできるだけ緩やかにすることがリハビリテーションとしての役割となります。
おわりに
デュシェンヌ型筋ジストロフィーは、進行性の筋力低下を主な症状とする遺伝性の筋疾患です。
現在のところ特効薬はなく、各時期に合わせた対処的な身体のケアを実施し、その症状の進行を予防する以外に明確な治療法は確立されていません。
その中でリハビリテーションの役割は、適切な運動量の設定と各時期に合わせた変形・側弯の予防のための運動療法を行うことで、身体動作の能力の低下を緩やかにしていくことです。
デュシェンヌ型筋ジストロフィーは、様々な合併症が見られ症状が軽快していく疾患ではない難病ですが、適切な身体のケアを行うことでその症状の進行を緩やかにすることができ生命予後を良くすることが可能になります。
病態をしっかり把握し、各時期に合わせた適切な身体のケアが行えるようにしていきましょう。
(参考文献)
デュシェンヌ型筋ジストロフィー診療ガイドライン(2014)