発達障害は精神的なものだけじゃない!運動のぎこちなさが見られる発達性協調運動障害とは?
近年、日本の周産期医療の発達に伴い早産で小さく出生しても救命される確率が高くなってきています。
しかし、早産で小さく出生することにより様々な疾患のリスクが高くなってきているのも事実です。
その中で知的・情緒・社会性の問題を抱える発達障害に罹患するリスクも高くなってきていますが、発達障害の中には運動のぎこちなさが見られる「発達性協調運動障害」という疾患があります。
今回は、発達性協調運動障害とはどのような疾患なのか紹介していきたいと思います。
発達性協調運動障害とはどういった疾患なのか
発達性協調運動障害は、その名前の通り小児期から日常生活内の活動にぎこちなさがみられる身体運動全般の障がいです。
見た目上は一見すると何も障がいがないように見えるので、生まれたばかりの乳幼児期の頃は気づかれることがほとんどありません。
また、小児リハビリテーションの代表的な疾患である脳性まひのように明らかに身体に麻痺症状が見られるわけではないので、極端に立ち上がりや歩行などが障がいされるわけではなく、ほとんどの日常生活活動は行うことができます。
そのため、1歳前後から2・3歳までは周囲の子どもたちとほとんど同じように活動を行うことができるので、本人もあまり不便を感じることがありません。
この時期に発達性協調運動障害と診断がつくことはまれで、それ以降の主に就学前の時期である4歳から6歳ぐらいまでにかけて診断されることが多いです。
発達性協調運動障害は、筋肉や神経、視覚・聴覚などの感覚に異常はなく、座って授業を聞くことや椅子から立ち上がったりすることなどの基本的な身体活動は問題なく行うことができます。
しかし、少し応用的な動作になってくると運動のぎこちなさが見られるようになってきます。
応用的な動作とは、例えば野球のキャッチボールとかサッカーのボールを蹴るなどの動作のことを指します。
このように基本的な日常生活活動は行うことができるけれども、少し応用的な動作になると運動がぎこちなくなり、協調運動に困難が見られる運動面の障がいを発達性協調運動障害と言います。
なぜ運動がぎこちなくなってしまうのか
実はなぜ運動がぎこちなくなってしまうのか、その原因ははっきりと分かっていません。
原因の一つとして早産で出生する低出生体重児であることが挙げられますが、全ての低出生体重児にこのような協調運動の障がいが見られるわけではありません。
注意欠陥性多動障害や自閉症スペクトラムといった発達障害を合併している場合も多く、これら知的・情緒・社会性の障がいとの関連性も考えられます。
また低出生体重児は、胎内において急激な身長・体重の増加を経験しないまま出生するため、十分な身体活動が得られにくかったことが影響しているとも言われています。
出生してからどのように発達していくのか
前述のように低出生体重児は、胎内において十分な身体活動が得られないまま出生するため重力下において身体運動を行うことが難しくなります。
そのため、寝返りや腹ばい(腹臥位)といった運動発達も月齢より少し遅れて発達していくので、歩きはじめが健常児より遅くなることもあります。
実はこの時期から運動のぎこちなさは見られているのですが、極端に健常児と比べて歩きはじめが遅いわけではないので、あまり気づかれることは少ない傾向があります。
2歳から3歳の頃は健常児であってもそれほど応用的な身体活動は行わないので、運動にぎこちなさが見られてもそれほど目立つことはないということですね。
しかし、就学前の4歳から6歳頃になると小学校生活に向けて応用的な動作を要求されるようになってきます。
例えば、服のボタンをとめる、書字動作を行う、ハサミで紙を切るなどの手先を使用した微細運動。
かけっこをする、ジャンプをする、鬼ごっこをするなどの粗大運動。
スキップをする、縄跳びをする、楽器を演奏するなどの構成運動行為などの応用的な動作に不器用さが目立つようになってきます。
こういった応用動作は、人として最低限生きていくためにはそれほど必要性が高い身体活動ではありませんが、この時期の子どもたちにとってはお互いに遊ぶことで社会性を発達させていく時期なので心理的な発達に大きく影響していきます。
そのため、遊びの中でついていけない部分が多くなると社会性の発達の遅れや、学業成績にまで影響が及ぶことがあります。
実際に小学生になるとそれまで以上に応用的で複雑な活動が行われるので、頑張っても周囲についていけないという劣等感を抱くようになり、いじめや不登校などの問題が顕在化する場合もあります。
学校を卒業し大人になってもこのような不器用さは継続するので、仕事によっては適応することが難しく、社会に適応できないまま引きこもりとなってしまう場合もあります。
どのように治療を行っていけばよいのか
現在は、低出生体重児などの周産期に何かしらの影響があった場合は必ず発達のフォローが行われます。
乳幼児期の頃は、運動のぎこちなさが将来に影響するのかどうかを判断することは容易ではありませんが、発達性協調運動障害の有無に関わらず乳幼児期の段階から運動発達のフォローを行うことがほとんどです。
具体的に歩き始めるまでの乳幼児期の頃は、月齢に沿って正常運動発達を促していき、多様な身体活動を経験させていきます。
歩行が出来るようになってきた後は、運動の不器用さにも個人によって差があるので、十分に幼稚園や保育園などの環境でも適応できる場合は経過観察でフォローアップを行います。
身体運動のぎこちなさが日常生活に影響することが考えられる場合は、理学療法などの個別での身体の動かし方について練習を行います。
発達性協調運動障害に効果的なコーディネーショントレーニングとは?
発達性協調運動障害には、集団でのトレーニングとしてコーディネーショントレーニングという自分の身体運動を意識しながら活動を行うトレーニングが効果的と言われています。
これは本来人が持っている7つの能力(定位・変換・連結・識別・反応・リズム・バランス)を、意識的に身体を動かすことで脳を鍛えるトレーニングです。
例えば、昔ながらの遊びで言えばケンケンパのように空間で自分の身体を意識する練習と片足跳びでバランスをとる練習の組み合わせになります。
長縄跳びであれば、回ってくる縄を視覚的に意識しながらタイミングよくジャンプする練習になります。
こういったトレーニングを身体運動経験として積むことで次第に運動のぎこちなさが軽減していきます。
ただ、このトレーニング法は運動神経機能が急速に発達する5歳から12歳の間のゴールデンエイジと呼ばれる時期に行う必要があります。
この時期より早くても遅くても効果的ではなく、ゴールデンエイジの時期に将来の身体機能の基礎を築いていくことが大切です。
おわりに
発達性協調運動障害は、発達障害の中でも特に身体運動機能に障がいがみられる疾患です。
その運動機能の障がいは、走ることやジャンプすることなどの粗大運動だけではなく、書字やハサミを使うなどの微細運動や、サッカー・野球などのルールの中で行う構成運動など様々な場面で障がいが見られることが特徴です。
月齢通りの発達より少し遅れることが多く、歩きはじめが遅いなどの乳幼児期からの正常運動発達の遅れは見られますが、2・3歳頃は身体運動の不器用さは目立ちません。
しかし、就学前の4歳から6歳頃になると日常生活内で様々な運動の不器用さが目立つようになってきます。
発達性協調運動障害は、現在のところはっきりとした原因は分かっておらず、その治療法も確立されていません。
個人によって運動のぎこちなさはそれぞれなので、まずはしっかりと子どもたちがどんなことに困り感を持っているのかということを把握することが大事です。
子どもたちが日々繰り返す日常生活の出来事を周囲が理解することで、発達性協調運動障害の子どもたちの社会性は育っていくのではないかと思います。
参考文献
発達性協調運動障害 親と専門家のためのガイド 第1版