認知症の基礎【分類や症状、リハビリテーションの方法を解説】
日本における65歳以上の高齢者のうち、およそ4分の1が認知症を発症している人とその予備軍と言われています。
そのため、臨床場面でも多く出会う疾患のひとつだと思います。
すでに超高齢社会に分類されている日本ですが、今後は第一次ベビーブームに出生した、いわゆる団塊の世代が前期高齢者とされる65歳を過ぎることで、高齢化に拍車がかかるとされています。
それに伴い、認知症患者も増加することが予想され、出会う頻度が今までより一層多くなると思います。
そこで、今回は認知症についての基礎からリハビリテーション介入まで解説していきます。
定義
全般的に知能が低下した状態を指します。
- 脳内に器質的な損傷あるいは疾病を要する
- いったん正常に成熟した脳が後天的な外因によって破壊されたため知能が低下したもの
- 全般的な知能の低下
といったような条件を満たすものをいいます。
診断
認知症の診断としてよく使用されるのがアメリカ精神科医学会の精神障害の診断と統計マニュアル(DSM)です。
また、画像検査、脳波の測定、血液検査などが行われます。
他には長谷川式簡易認知症スケール(HDS-R)やミニメンタルテスト(MMSE)があり、これらはセラピストもよく使用するものです。
HDS-R
日本では特に多く使用されています。
全9問からなり、30点満点。
20点以下で認知症の疑いとしています。
簡易的な検査なので20点以下だからといって必ずしも認知症であるとは限りません。
MMSE
11問からなる30点満点。27点以下は軽度認知障害(MSI)の疑い、23点以下を認知症の疑いとしています。
HDS-Rに対して、記憶に対する設問は少ないですが、書字や空間認知能力を判断する設問があるのが特徴です。
分類
認知症には成因によって種類があり、症状の現れ方が異なってきます。
特にアルツハイマー型認知症、脳血管型認知症、レビー小体型認知症は3大認知症といわれ、臨床場面で出会う頻度も高いです。
アルツハイマー型認知症
認知症の中でも最も多いのがこの認知症で、男性より女性の割合が多いです。
神経細胞が死滅し大脳がびまん性に萎縮します。
脳内には老人斑というアミロイドの沈着が現れます。
特に記憶を司る海馬や側頭葉からの萎縮が多いため、記憶障害が目立ちます。
高齢者の場合緩やかに進行しますが、発症年齢が若いほど症状の進行は急速です。
脳血管型認知症
原因として多発性脳梗塞が挙げられ、病巣が大きく梗塞が多い程、認知症が現れやすいです。
他の認知症との違いは脳の梗塞部位や程度によって認知症症状が一様ではなく、できることとできないことがはっきり分かれていることです。
例えば、記憶力が低下しているのに判断力や理解力は保たれているといったことがおこります。
その症状の現れ方から、まだら認知症と呼ばれています。
また、症状の程度が一日の中でも変動があったり、症状の進行が階段状で、今までできていたことが急激にできなくなるといったことがおこるのも特徴です。
レビー小体型認知症
レビー小体という特殊なタンパク質が脳内に蓄積しておこる認知症です。
初期は認知症が目立たないことも多く、幻視やパーキンソン症状などが現れます。
この認知症の幻視は人や虫などが鮮明に見えることが特徴で、認知症患者本人は現実におこっていることとして捉えているため具体的な訴えとして現れます。
中等度になると認知機能の低下が明らかになってきたり、無動・寡動、歩行障害といったパーキンソン症状が現れます。
さらに進行すると全体的に症状が顕著になり、攻撃的になるなど人格変化も現れます。
前頭側頭型認知症(ピック病)
その名の通り、脳の萎縮が前頭葉-側頭葉に限局している認知症です。
症状は知的能力の低下よりも人格変化や異常行動が目立ちます。
その結果、信号無視や暴力、万引きといった反社会的な行動を取る可能性があります。また、自身で善悪の判断がつけられないためその行動について指摘しても反省を示さないところが特徴です。
他には、同じ内容の言葉を何度も繰り返す帯続言語や同じ行動を反復する常同症がみられることが多いです。
混合型認知症
アルツハイマー型認知症と脳血管型認知症が同時に混在している状態です。
どちらも高齢になっておこる病的変化によって発症するため、同時に発症していることも少なくありません。
症状はアルツハイマー型認知症のゆるやかな進行と脳血管性認知症の階段状の進行が混ざっているため、穏やかに進行しつつも梗塞が起こるたびに急激に悪化するといった経過をたどります。
正常水頭圧症性認知症
原因不明の突発性正常圧水頭症とくも膜下出血や頭部外傷、髄膜炎の後に起こる二次性正常圧水頭症があります。
どちらも脳脊髄液の循環不全によりおこります。
認知症、歩行障害、尿失禁が3大症状とされており、アルツハイマー型認知症や脳血管型認知症と間違われることも多いですが、この認知症が他と異なるのは治療可能であることです。
軽度認知障害(MCI)とは
冒頭で触れた、認知症予備軍のことです。
健常者と認知症発症者のちょうど中間に位置し、数年以内に認知症に移行する可能性があります。(必ず認知症に移行するとは限りません。)
判断としては、主観的な物忘れの訴えがあること、年齢に比し記憶力が低下していること、日常生活動作は正常であること、全般的な認知機能は正常であること、認知症は認めないこととされています。
認知症を発症した後になると改善は難しくなりますが、早期に治療することで認知症への進行を予防することができます。
そのため、本人やその家族が気づいたら早めに受診することが大切です。
症状
認知症の症状は中核症状と周辺症状に分かれ、中核症状は程度や順序には個人差がありますが、一般的には全ての認知症患者におこり、中心となる症状です。
周辺症状はBPSDと呼ばれる精神と行動の異常であり、中核症状に対して全ての認知症患者に現れるとは限らず、症状は様々です。
中核症状
①見当識障害
時間・場所・人に対する認識の障害です。
今日は何月何日か、今いるところがどこか、馴染みの人物が誰なのかといったことが分からなくなります。
多くは認知症の初期に症状が現れます。
②記銘力・記憶力の低下
特にアルツハイマー型認知症の中心となる症状で、即時記憶、短期記憶が障害されます。
長期記憶は保たれていることが多く、昔のことを尋ねると答えることができます。
③理解・判断力の低下
物事を理解したり決断するのに時間がかかったり、季節感に合った服装が着られない、善悪の判断がつかないといったことが生じます。
④遂行機能障害
物事を計画し段取りを組んで実行することが困難になります。
例としてよく挙げられるのは調理動作で、バランスの良い献立を考えたり、効率よく作業が行えない、味付けの加減が分からなくなります。
⑤失語・失行・失認
失語は喚語の困難さや呼称障害が現れ、言葉が出てこなかったり、指示語が多くなります。
失行は服を上手く着方や箸の使い方がわからないなどが生じ、失認は人物が誰であるか物が何であるか分からなくなる状態です。
⑥注意障害
集中が持続せず他の物に逸れてしまったり、動作が止まってしまうといったことがおこります。
また、会話では思考が止まりつじつまが合わない状態になります。
周辺症状(BPSD)
⑦抑うつ・不安
不安感や気分の落ち込み、意欲の低下などが現れます。
⑧徘徊
屋内の同じ場所を回ったり、あちこちを歩き回り、認知症が進行すると特にみられます。
一見目的なく歩き回っているように思いがちですが、本人にとっては意味があることが多いです。
⑨幻覚・妄想
見えないはずのものが見える幻視はレビー小体型認知症によく現れます。
妄想は、特に「財布を盗まれた」などと訴える物盗られ妄想がよくみられますが、実際には本人が閉まった場所を忘れている場合がほとんどです。
⑩異食
食べ物とそうでないものの判断ができず、食べられない物を口に入れたり食べてしまいます。
重度になると身の回りにあるものを何でも口に入れてしまうことがあります。
⑪暴言・暴力
特に前頭側頭型認知症にみられ、以前は穏やかだったのに認知症を発症してから急に攻撃的な性格になることがあり、暴力をふるったり、暴言を吐いたりします。
⑫不潔行為
主に排泄行為における症状で、軽度の段階での失禁や放尿等は背景がトイレの場所が分からないことである場合も多いです。
重度になるとおむつはずしや弄便などがみられます。
認知症との鑑別
認知症と似た症状を呈する疾患も多くあるため、違いや特徴を把握し鑑別できるようにしましょう。
意識障害(せん妄)
軽度の意識障害では記憶障害や混乱、幻覚等が生じ、高齢者の場合は認知症と間違われることが多くあります。
鑑別ポイントとしては、意識障害は回復が可能ですが認知症は回復が困難です。
また、意識障害は症状が一日の中で症状が変動しますが、認知症は一般的には症状が固定しており持続的に現れます。
良性健忘
いわゆる「物忘れ」のことを指しますが、認知症の記憶障害とは大きく異なります。
物忘れは生理的老化であり物忘れの頻度が増えることはりますが、認知症は脳の病的な老化であり進行性の疾患です。
物忘れでは体験の一部を忘れますが、認知症では体験したこと自体を忘れてしまいます。
例えば、物忘れでは「今朝何を食べたか思い出せない」というように朝食を食べたことは覚えていますが、内容を忘れてしまいます。
一方で認知症は「今朝ご飯を食べていない」というように朝食を食べたこと自体を忘れてしまいます。
その他の特徴としては、認知症の場合は見当識障害が初期に現れることが多く、記憶障害の自覚がないことが多いです。
時に人格の変化や幻覚妄想といった症状を伴う場合もあります。
うつ病
うつ病では意欲や判断力・記憶力の低下、性格の変化などが見られます。
高齢になってからうつ病を発症する人も多く、認知症の症状のひとつに抑うつがあることから、一見すると認知症と似た印象を与えるのです。
うつ病には妄想や自責感、悲哀感などの訴えがあることが鑑別のポイントです。
薬剤性認知症
薬剤の中には注意障害や記憶障害といった認知症と思われる症状が現れるものがあります。
特に高齢者は長期にわたって服薬していたり、複数の薬剤を処方されていることが多いため、服薬状況を確認する必要があります。
例えば、向精神薬や抗ヒスタミン薬などで認知障害が生じることがあります。
薬剤性認知症の場合、薬物の使用を中止したり変更することによって改善されます。
評価
リハビリテーション評価としては、先に述べたHDS-RやMMSEといった質問式の検査が認知症を評価する上で特に多く使用されます。
主に周辺症状を対象とする認知症行動傷害尺度(DBD)という観察式の検査もあり、28項目をそれぞれ5段階で評価します。
検査だけでは全容を捉えきれないため、ADL評価を含めた観察や、本人や家族からの情報収集が大切になります。
薬物療法
塩酸ドネペジル(アリセプト)はアセチルコリンエステラーゼ阻害剤であり、日本ではアルツハイマー型認知症の治療に最もよく使用されています。
他には酒石酸リバスチグミン、ガランタミン、ナメンダ、γアミノ酪酸、フルリザン等が用いられます。
リハビリテーション
認知症に対するリハビリテーションの目的としては
- 認知機能障害の改善
- 情動機能の改善
- 認知症の介護を困難にする行動や心理学的な症状の緩和
- QOLの改善
とされることが多いです。
認知症初期の場合には認知機能訓練、それ以進行すると認知機能訓練の難易度が高いため、現実見当識訓練、バリデーション療法などが選択されることが多いです。
介護老人保健施設などでは音楽療法やグループでのレクリエーションが取り入れられることも多く、介入方法は様々です。
認知訓練
記憶、注意機能など、ひとつの機能に対して集中的に訓練を実施し、症状の進行を抑えたり、機能の向上を図ります。
注意機能に対しては、抹消課題や音読、記憶に対してはメモリーノートの使用といったことを行います。
記憶障害の訓練の際は、課題を間違えてしまった場合、後に修正を加えて正答しても、認知症患者は間違えたという記憶だけが残ってしまうため、できるだけ誤りがないように課題を出し答えを導く「誤りなし学習」が推奨されています。
現実見当識訓練(リアリティオリエンテーション:RO)
クラスルームROはそのための時間と場所を設けグループで行います。
日付、季節、場所、人物といった基本的情報を与えながら会話を進行していきます。
その後振り返りを行うことで、情報をどれだけ把握し記憶できているか評価することができます。
24時間ROは日常的に行うすべてのやり取りの中に、繰り返し情報を与えていく個別的な介入方法です。
この時、伝える情報が一貫していることと、時間軸がぶれないよう現在の時間とすべき事柄を合わせて伝えるようにすることが重要です。
回想法
患者自身の人生を振り返って思い出話をすることで喜びを感じたり、自尊心を回復させることが目的です。
記憶障害はあるものの長期記憶は保たれていることが多いため、写真や昔を思い出すようなキーワードから会話を進めていきます。
セラピストは聞き手として受容的な姿勢で話を聞きながらも話を引き出すきっかけを提供していきます。
作業活動
食事、更衣、料理、掃除といったADL、IADLの様々な動作を通して、心理的な安定、自立度の向上、残存機能の維持、社会参加(グループへの参加)などを図ります。
作業療法の中心となる治療法です。
セラピストは難易度の高すぎる作業で患者が自尊心を損なったり危険にさらされることのないよう、どこまでの作業ができるのか、あるいはどこから手伝う必要があるかを想定し介入します。
バリデーション療法
認知症患者の言動をセラピストは無条件に共感し受容します。
コミュニケーションを通して心理的なケアをすることで信頼や安心感を与え、自尊心を取り戻すことが目的です。
心理的に落ち着くことで周辺症状が減少したり、不安感が軽減されるといった効果が期待されます。
おわりに
認知症は薬物治療においても完全に直す方法は見つかっておらず、症状を抑えたり進行を遅らせるに留まっているのが現状で、まだまだ研究がされている段階にあります。
そのため、セラピストは各症状に対する介入に加えて、心理的・社会的なアプローチが重要になります。
記憶障害や見当識障害の他にも、尊厳や自尊心が失われたり、大きな不安を感じていることも少なくありません。
セラピストは認知症ケアの意味を再確認し、患者さん一人ひとりに寄り添った介入をしていくことが大切です。
(参考文献)
福井圀彦,老人のリハビリテーション第7版 医学書院
伊藤利之,リハビリテーション辞典 中央法規