腰椎圧迫骨折とは?その症状や治療法と予防法
高齢者に多い骨折の一つに「腰椎圧迫骨折」があります。
しりもちをつくなど明らかなきっかけがある場合だけでなく、脆くなった腰椎が知らないうちに骨折していることもあり「いつのまにか骨折」と呼ばれることもあります。
今回は、腰椎圧迫骨折についてその症状や治療法、予防法について詳しくご紹介したいと思います。
「腰椎圧迫骨折」とは?
人間の背骨は、「脊椎」という骨が積み木状に重なってできています。
立位や座位のときには脊椎は上半身の重さを支えていますが、後方に転倒してしりもちをつくようなアクシデントではもちろん、椅子に腰かけるときにも脊椎には上下方向の瞬間的な圧力が加わります。
この圧力によって腰椎が潰れて変形してしまう骨折を「腰椎圧迫骨折」と言います。
通常、健康な成人であればかなりの高所から転倒しない限り腰椎圧迫骨折を生じることはありませんが、高齢者の場合、加齢に伴う骨密度の低下や脊柱を支える周りの筋力の低下により日頃の立ち座り動作の繰り返しだけでも腰椎圧迫骨折を生じてしまうことがあります。
腰椎圧迫骨折の症状
腰椎圧迫骨折の主な症状をご紹介します。
安静時痛
腰椎圧迫骨折の最大の症状は強い腰部の痛みです。
骨折してしばらくは患部に強い炎症を伴うため、安静にしていてもずきずきと痛むことが多々あります。
特に、座った状態や立った状態では腰椎に対して軸圧がかかるため寝た状態よりも痛みが強いことが多いです。
運動時痛
炎症が少しずつ落ち着き、腰部の安静時痛が軽減してきても身体を動かした際の痛みはさらに続きます。
体幹を動かすことによって患部に負荷が加わるため、寝がえりや起き上がり、立ち上がりといった起居動作によって特に強い痛みが生じます。
また、くしゃみや咳など腹筋や背筋に力が入るような行為も負担がかかるため痛みを伴います。
神経症状
腰椎圧迫骨折の症状は患部の痛みだけでなく、腰部から枝分かれしている神経に障害をきたす場合もあります。
腰椎と腰椎の間からは下半身を支配する神経が走行しているため、腰椎の圧迫骨折に伴って臀部から下肢のしびれや異常感覚、運動麻痺、排尿排便障害などが起こることがあります。
腰椎圧迫骨折の治療法
腰椎圧迫骨折の治療法についてご説明します。
保存療法
腰椎圧迫骨折の基本的な治療法は、手術などを行わず、コルセットにより患部の固定を行い、骨折部が固まるまで安静にする保存療法です。
骨折後早期に患部を動かすとさらに腰椎が変形してしまう可能性が高いため、通常の腰痛用のコルセットよりも硬く頑丈なコルセットによって患部が動かないように固定します。
骨折の程度や個人の治癒力によっても異なりますが、骨折部が安定するまでの1か月前後の間はトイレなど必要最低限の動き以外は安静にするようにします。
それを過ぎて主治医から許可がでたら少しずつ日常生活の動きを取り戻していきますが、圧迫骨折により脊椎の変形は残存しているため、以前に比べて背骨は丸まりやすくなり、姿勢の維持が難しくなることがあります。
そのため、なるべく骨折以前に近い状態に戻るために安静期間を過ぎたらリハビリを行うことが望ましいとされます。
リハビリでは、背骨を支えるための腹筋や背筋を鍛えることを中心に行います。
このような流れで徐々に回復していきますが、患部の回復と日常生活動作を取り戻すためには一般的に数か月から約1年かかります。
手術療法
骨折の程度や症状、その方の全身状態によっては腰椎圧迫骨折に対して外科的手術を行うことがあります。
術式は様々ですが、潰れた腰椎の中にセメントを入れて元の形に戻すものや腰椎同士を固定するものなどがあります。
保存療法よりも早期に痛みが取れるため、早くリハビリが開始でき寝たきりを予防できるというメリットがある一方、全身に対するリスクもあるため治療法は慎重に選ばれます。
手術療法を選択した場合も、再発予防や患部の強化のため腹筋や背筋のリハビリは必要になります。
腰椎圧迫骨折の予防
一度圧迫骨折を起こすと、治療の項で述べたように治癒までには長い時間がかかります。
よって年齢を重ねても圧迫骨折を起こさないための予防が大切です。
腰椎圧迫骨折を予防するためにはどのようなことが必要なのでしょうか?
腹筋や背筋の強化
人間の脊柱は頸部から腰部までたくさんの脊椎が重なる不安定な構造ですが、肋骨のある胸椎部分を除く頸部と腰部は背骨の周りを支えているものは靭帯や筋肉といった軟部組織しかありません。
特に腰椎の前面には内臓という生命を維持するためにとても大切な器官がたくさんあるにも関わらず、それを守るような骨構造はありません。
そこで腰部から腹部までの全周を守るのにとても重要な役割をしているのが、腹筋群と背筋群です。
立位や座位では脊柱に対して常に軸圧がかかっていますが、腹筋や背筋が収縮することによってその圧を分散し脊柱に過度な負担がかからないように支えています。
ですから、圧迫骨折を予防するためには腹筋と背筋をバランスよく鍛えることが大切です。
ウォーキング
骨は荷重をかけることで骨を作り出す代謝が活発になるため、骨密度を上げることにつながります。
よってウォーキングや階段昇降などの荷重運動を積極的に行うことで年齢を重ねてもある程度の骨密度を維持することができ、圧迫骨折を予防することができます。
バランスの良い食事
体幹筋力の強化やウォーキングといった運動をどんなに行っても、栄養バランスのとれた食事ができていなければ強くしなやかな身体を作ることはできません。
しっかりとした筋力を維持するためには肉や魚、卵や豆類といった良質なたんぱく質を十分に摂り、丈夫な骨を維持するためには乳製品や小魚といったカルシウムを豊富に含む食品を摂る必要があります。
またそれに加えて、野菜類や海藻類といったビタミン類やミネラルもバランスよく摂ることで筋肉や骨の合成を促進することができます。
そのようなバランスの取れた食事を心がけることで丈夫な筋肉や骨を維持し、圧迫骨折を予防することができます。
動作の注意
丈夫な骨や筋肉を維持することも大切ですが、背骨に強い外力が加わらないように気を付けることも圧迫骨折を回避するためには重要です。
転倒してしりもちをつかないように足元をしっかり確認し、滑りやすかったりつまずきやすいような場所を避けたり不安定な靴は履かないようにしましょう。
それだけでなく椅子に腰かけるときはどしんと勢いよく座らず、下半身の筋肉を使って踏ん張りながらゆっくり座るようにすることも大切です。
おわりに
今回は、「腰椎圧迫骨折」についてその症状や治療法、予防法についてご紹介しました。
ある程度の年齢を重ねると誰でもいつのまにか起こってしまう可能性がありますが、日頃の生活を見直し、今回ご紹介したような運動と食事を心がけることで予防することができます。
一度なってしまうと、長期にわたって腰痛が続いたり、丸まった姿勢が戻らなくなってしまうなどいろいろな弊害がでてくることもありますので是非しっかりと予防していただきたいと思います。