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効果的な臨床実習の進め方と実習指導者の役割

効果的な臨床実習の進め方と実習指導者の役割

リハビリテーションの臨床実習は、これまで培った学内での学習をもとに、実際の臨床現場で実践できる貴重な機会となります。学生のうちに、臨床の雰囲気を体感することができ、臨床実習を修了した頃には学生は一皮も二皮も大きくなっていることでしょう。
 しかし、臨床実習をストレスに感じる学生は多く、身体的、心理的ストレスを抱えている学生が多いのが現実です。臨床実習は「ツラくて当たり前!それを乗り越えてこそ一人前!」という声を聞くこともありますが、果たしてそうでしょうか。実習先によって、実習の進め方、課題の量、症例の数が異なること、また実習指導者によって指導のポイントが異なることは、教育課程においては問題です。今回は、学生にとっても、実習指導者にとっても最も効果的な臨床実習について考えてみたいと思います。

臨床実習の到達目標

以前は、新卒であっても一人職場であることが珍しくなく、就職を受け入れる病院や施設側も、誰の助言を受けなくとも基本的なリハビリテーションを実施できる人材を求めていました。そのため、理学療法教育における臨床実習の到達目標は「基本的理学療法を独立して行える」とされてきました。しかし、近年は理学療法士の数は増加し一人職場が減り、卒後教育が整っている施設や関連研修会が増え、到達目標は「ある程度の助言・指導のもとに、基本的理学療法を遂行できる」1)と見直されました。
 また、作業療法教育における臨床実習の到達目標は、臨床実習指導者の指導・監督のもとで、典型的な障害特性を呈する対象者に対して、①許容される臨床技能を主体的に実践できる、②臨床実習指導者の作業療法の臨床思考過程を説明できる、③作業療法士としての倫理観や態度を身につけることとされています2)。

臨床実習の問題

医学生や看護学生の臨床実習では、法的正当性を保ち、臨床実習で実施可能な行為について水準が設けられており、時代に即した実習の在り方とその質の確保に関する整備が行われています。理学療法士・作業療法士の臨床実習の在り方は、ここ数年で国会に課題として取り上げられ、政府は指定規則改定と同時に臨床実習についても検討することに言及しました。理学療法士・作業療法士学校養成施設カリキュラム等改善検討会3)では、臨床実習の指導者の要件も検討されました。
 臨床実習の要件について「免許を受けた5年以上業務に従事した者であり、厚労省が指定する講習を修了すること。」とされており、講習は16時間以上(案)と示されています。現在、まだ検討されているところですが、平成32年度の入学生から適用される方向性になっています。
 現在の臨床実習形態で問題とされているのは、患者は治療を受ける権利があるが、国家資格をもたない学生が実際の患者の評価や治療を行うことをどう捉えるかという点です。事故や医療過誤が起こった際には、なおさら問題となり訴訟問題にまで発展しかねません。
 臨床実習指導者は、この点を特に考慮し、学生が患者の評価や治療を行う際には、常に、臨床実習指導者の指導・監督のもとで行うことが求められます。
 臨床実習を行う際には、①患者・家族の同意のもとで行うこと、②臨床実習の本来の目的から外れないこと、③学生が患者の評価、治療を単独で実施せず臨床指導者の指導、監督のもとで実施すること、④学生が起こした事故を含めた安全管理対策がしっかりとられていること、⑤学生が実施できる範囲が明確になっていることが大切になります。

効果的な臨床実習の進め方

臨床実習では、通常業務の中で「個人の特性に配慮しながら、わかりやすく説明した後に、可能な業務から分担させていく」というOJT(on the job training)の教育システムで実施することが原則となります。この教育システムでは、患者さんの治療や評価を行う上で、未熟者のミスを極力出さないように実習を進めるのに非常に効果的で、リスクマネージメントの観点からも推奨されます。この実習の進め方から外れると、臨床業務に混乱をきたし、現場に過度な負担がかかるだけでなく、学生側臨床実地経験も効果的なものでなくなります。
 これまでの臨床実習では少なからず、学生用の担当ケースを用意する、学生の前では普段の臨床とは異なる手法で行う、学生のために患者さんの治療時間を増やすなど、学生がいるがために、わざわざ他のシステムで業務を実施することがありました。このシステムはoff-JT(Off the job training)と呼ばれるものです4)。
 また、これまで多くの施設で行われてきたレポート指導を中心とした実習は、学生を委縮させ、心身ともにかかるストレスを増大させ、本来の臨床実習の目的を果たすものでないと指摘されています。臨床実習指導者の中には、自分が過去に受けて来た実習をモデルとした指導を行い、実習の目的や教育理念のないまま、学生を評価する者もあり問題とされています。
 この問題点に対しては、臨床実習指導者は教育的基盤があり、教育学的視点をもった者が担当することが望ましいでしょう。その上で、学生の個性や心理面を考慮した実習指導を行い、根拠に基づいた学生評価を行うことが必要です。

クリニカルクラークシップとは

臨床参加型臨床実習は、クリニカルクラークシップ(Clinical Clerkship:以下,CCS)といわれています。CCSの基本的な考え方は、臨床実習指導者が受け持つ患者に対して助手として診療に加わり、安全に自立して可能であると判断された技術項目について受け持つ技術単位診療参加システム、見学・模倣・実施の原則、「行動目標対象は患者」である実習環境、「できることから」実践していくことで、診療参加させながら学生の成長を促すものです5,6)。CCSは、学生への教育効果、過度なストレスの軽減、リスク管理、指導者の負担軽減、患者保護などに効果的で、士協会や厚生労働省に推奨されており、年々導入する施設、養成校が増加しています。
 しかし、養成校の方針でCCSを取り入れることが決まっても、実習施設ではCCSの考え方や進め方を理解しておらず実習現場では混乱している場合もあります。また、養成校としては実習生を受け入れてもらっている立場なので、受け入れ先の実習方針に強く意見をいえず、結局、従来の実習を続けている場合もあります。CCSの言葉だけが先行し、理念を伴っていない場合もあります。例えば、レポートを無くすだけ、学生に助手として動いてもらうだけで、本来の臨床実習の目的を果たしていないこともあります。効果的な実習を行うには、実習先と養成校が連携をとり、目的、方向性を一致させて取り組む必要があります。

さいごに

 理学療法士や作業療法士などのリハ専門職の臨床実習については、以前より「グレーな部分が多い」「体育会系」「学生にとって最大の難関」などといわれる事もありました。しかし、限りある実習期間をより効果的なものにするために、教育的な視点をもった指導が求められます。実習指導者には、リハ専門職の質を担保するために、専門職としての価値を上げるために、養成校の教員と協働して後進を育てる役割があります。実習生にとっても実習指導者にとっても、より効果的な教育を行うことが求められます。
(参考文献)
1.高橋精一郎;教育ガイドライン.理学療法学.40(8):529-534,2013.
2.作業療法臨床実習指針(案)一般社団法人日本作業療法士協会 2017/06/18  http://www.jaot.or.jp/wp-content/uploads/2013/12/rinsyoushishin-an.pdf.
3.厚生労働省ホームページ;理学療法士・作業療法士学校養成施設カリキュラム等改善検討会報告書(平成30年2月13日). http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000193257.html.
4.中川法一,青山誠,松葉好子,山下昌彦,濱田浩樹;臨床教育の検証と新たな方向性. 理学療法学.40(2):151-155,2013.
5.中川法一.セラピスト教育のためのクリニカルクラークシップのすすめ(第2版).三輪書店,東京,2003,pp37-42.
6.永井良治,中原雅美,森田正治,他.クリニカルクラークシップの実践に対する調査報告. 理学療法科学.32(5):713-719,2017.

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