脳性まひの原因とは?脳性まひになりやすい3つの疾患について知ろう!
脳性まひの概念は広く設定してあり、その症状も複雑に重なり合っていることが特徴です。
脳性まひの病因となりやすい疾患は、脳性まひの症状が多様であることと大きく関連しており様々な原因があります。
その中でも特に脳性まひの原因となりやすい疾患が大きく分けて3つあります。
1つ目が脳室周囲白質軟化症(PVL)、2つ目が脳室内出血(IVH)、そして3つ目が低酸素性虚血性脳症(HIE)です。
今回は脳性まひの原因となりやすい脳室周囲白質軟化症・脳内出血・低酸素性虚血性脳症の3つの疾患について考えていきたいと思います。
脳室周囲白質軟化症(PVL)は最も脳性まひになりやすい疾患の一つ
脳室周囲白質軟化症は、その名前の通り脳室の周囲の白質が軟化する(変性する)ことにより血管栄養が行き渡りにくくなることで虚血状態になり、その周囲を通る神経が働きにくくなることで痙性麻痺を呈する疾患です。
この疾患は周産期(出産前後の時期)に最もかかりやすい疾患です。
出産前後の新生児は満期産児であってもまだ脳室周囲の白質の形成が十分ではないのですが、低出生体重児や早期産児のお子さんは特にこの部分の形成が十分になされていないために痙性麻痺(脳性まひ)のリスクが高くなります。
少し詳しく説明すると、PVLは脳室周囲の白質の部位に多発する軟化した腫瘍のような病変が特徴で、斑点状もしくは線状の軟化変性が脳室の一つである側脳室外側部の白質に最も多く形成されます。
低出生体重・早産児は、前述したように大脳皮質の形成がまだ不十分な状態で出生するため、この『白質』と呼ばれる部位が非常に脆弱になっています。
そのため、脳室及びその周囲の白質が変性することにより、お互いを連結する動脈が形成されにくく、さらにその境界が不十分になってしまうということなどが原因で、この部分に軟化症(虚血状態)が起きやすくなってしまいます。
さらに出産時は新生児の呼吸が止まってしまったり、なかなか膣口が開かず出産時間が長くなってしまったりなど、新生児の脳に様々なリスクを伴います。
こういった原因により新生児の脳に血流が十分に行き渡らなくなる(低灌流・虚血状態になる)ことで、軟化が生じやすくなると考えられています。
PVLは、出産時の母子の状態により範囲が広範囲に及んだり、限定的なものであったり、表面だけのものだったりと幅広く病変分布が変化しその程度も重度なものから軽度なものまで様々です。
重度な症状になると障がいされる動脈も前中大脳動脈・後大脳動脈など大脳皮質の深部に及ぶことがあります。
PVLが発生する部位は皮質脊髄路を含む錐体路(運動神経を司る部分)を含むので痙性麻痺を呈しやすくなります。
また、脳室に最も近接している運動神経が下肢あるいは体幹に及ぶため、主に両下肢の痙性麻痺が多く見られ痙直型両麻痺になりやすい傾向があります。
病変は基本的には左右対称の病変になりやすいですが、白質の軟化が拡大する場合には大脳皮質領域まで影響を及ぼすこともあります。
こういったことから一概にはどのような症状になりやすいとは言えず、個人によってその症状は様々です。
ただこのように病変が広範囲に及ぶと、一次感覚野や連合野にまで影響が及び視覚認知障害となることもあります。
PVLは脳性まひの原因の中で最も大きな原因であり、低出生体重児が増加してきていることからますます罹患する確率が高くなってきています。
脳室内出血(IVH)とは?どのような症状が見られるのか
脳室内出血もPVLと同様に周産期に何かしらの影響が新生児の脳に及び、脳性まひの原因となる疾患です。
この疾患も低出生・早産児の新生児に多く見られ、特に脆弱になりやすい上衣下胚層と呼ばれる部分に出血が及び、脳室内出血へとなっていきます。
主に在胎28週(妊娠6ヶ月から7ヶ月頃)未満で10数%の新生児に発症するといわれ、その約9割が生後72時間以内に脳室内部に出血が起こることで身体に麻痺症状が見られるようになります。
ただ、すべての脳室内出血の新生児が脳性まひになるわけではなく、脳室内の出血の程度により脳性まひに罹患する確率が変わってきます。
脳室内出血の程度は以下のようなGradeによって区分されます。
GradeⅠ・・・脳室上衣下出血のみで、わずかに脳室内に出血が見られる状態
GradeⅡ・・・脳室内に出血が多く見られるが、脳室が拡大するほどの出血は見られない
GradeⅢ・・・脳室内に多くの出血が見られ、脳室の拡大が著明である
GradeⅣ・・・脳室内の出血にとどまらず、脳実質(脳室周囲の白質など)にまで出血が広
範囲に起こる状態
Gradeによって様々な症状が見られますが、主に脳性まひのような多様な症状が見られやすいのがGradeⅢからⅣの脳室内出血の重度な新生児であると言われています。
麻痺の身体分布も後々の予後が重度になりやすい四肢麻痺になることが多く、GradeⅢからⅣの新生児は知的障害やてんかん発作、言語障害などの複雑な症状が見られるようになります。
つまり脳室内出血で脳性まひになりやすい程度としては、脳室内の出血が脳室が拡大するほど多く見られ、脳の実質を圧迫したり脳実質自体に出血していたりするなどの場合が多いということが考えられます。
低酸素性虚血性脳症(HIE)とは?どのような症状が見られるのか
低酸素性虚血性脳症(以下HIE)は、PVLやIVHのように局所的に脳出血していたり、変性していたりすることで脳性まひになってしまう疾患ではありません。
ただこの疾患もPVLやIVHと同様に周産期に起こりやすい疾患で、周産期の何かしらの影響により脳性まひのような身体運動麻痺が見られる疾患です。
この疾患は別名「新生児(出生児)仮死」と呼ばれる疾患で、出生時に重度の低酸素状態が持続したり、呼吸循環動態障害が見られたりすることで脳に酸素が行き渡らなくなることで発症します。
酸素が十分に行き渡らなくなると脳自体は脳浮腫(頭蓋内圧亢進)という脳が膨らんだ状態になり、てんかん発作などを頻繁に起こすようになります。
その後、症状が落ち着いてくると同時に低酸素状態の影響により脳性まひのような身体麻痺を呈するようになります。
HIEの症状としては、呼吸障害とは別に末梢循環不全、活気低下、筋緊張低下、哺乳不良などの症状が見られます。
特に一次的に筋緊張が極端に低下することが多く、脳実質全体に影響が及ぶことが多いです。
まとめ
脳性まひに罹患しやすい疾患は様々ですが、その中でもPVL・IVH・HIEの3つの疾患が最も脳性まひを合併しやすい傾向があります。
いずれの疾患にも共通していることは早産・低出生体重児であればそれだけ罹患する確率が高くなるということであり、出生時のアクシデントにより脳実質に影響が及びやすいということが考えられます。
PVLは脳の白質に変性が起こることで発症し、IVHは脳室内に出血が多量に起こることで脳実質に影響が及びます。
HIEは他の疾患と同様に局所的に脳に影響が及ぶのではなく、周産期に脳が全体的に低酸素状態になることで発症しやすくなります。
いずれの疾患もそれぞれ症状に差はありますが、周産期はそれだけ新生児にも母体にも大きな影響があるということが言えます。
近年は周産期医療の発展に伴い新生児も母体も命の危険性は低くなりましたが、その反面低出生体重児が増加しそれだけ脳性まひのリスクも高まってしまうという問題点が顕在化してきました。
脳性まひの原因となる疾患の病態は様々ですが、脳性まひという障がい名にこだわらずその原因となる疾患についてもしっかり理解しておきましょう。
(参考文献)
正常発達 第1版 脳性まひ治療への応用
正常発達 第2版 脳性まひの治療アイデア
子どもの理学療法