脳性まひにおける側弯・変形はなぜ出現するのか?その原因と対策について考えよう!
脳性まひは、理学療法の対象となる小児疾患の中でも代表的な中枢性の疾患ですが、その症状は単に上肢・下肢の麻痺症状が見られるだけではなく、様々な合併症がみられることが特徴です。
てんかんや感覚・知覚の問題、情緒面・知的な問題などの合併症は、出生直後から見られるいわゆる一時的な合併症ですが、その他にも変形や側弯といった二次的な障害も多く見られます。
側弯や変形といった合併症は、脳性まひの方にとって生涯持続しやすい合併症ですが、なぜ脳性まひの方たちは変形や側弯といった合併症が見られるようになるのでしょうか。
今回は、脳性まひの方たちがなぜ変形や側弯といった合併症が見られるのかということについて考えていきたいと思います。
なぜ脳性まひの方たちに変形や側弯が見られるようになるのか
脳性まひの方たちの主な症状の中に、身体の運動麻痺があります。
身体の運動麻痺は出生直後からみられる一次的な障がいですが、脳性まひで身体の運動麻痺が見られるからといって出生直後からすぐに変形や側弯が見られるわけではありません。
脳性まひの方も出生直後は、奇形などの例外を除き健常児と同じ骨格を持って出生します。
そのため、出生直後は健常児とほとんど見た目は一緒であり、変形や側弯といった明らかな身体の違いが見られるような症状はありません。
つまり、出生直後はまだ身体の運動麻痺がそれほど身体の骨格に影響を及ぼすことは少ないということが考えられます。
では、なぜ脳性まひの方に側弯や変形が見られるようになるのかというと、身体運動麻痺が生涯持続することでパターン的な身体運動が習慣化してしまい、それに骨格が耐えられなくなってきて変形や側弯が出現するようになります。
いつごろから変形や側弯が見られるようになるのか?
脳性まひの方が変形や側弯が見られるようになる時期は個人差がありますが、第二次成長期と言われる小学校高学年から高校生にかけての時期が最も変形や側弯の出現が多い傾向があります。
なぜ第二次成長期に変形や側弯が出現しやすいのかというと、この時期は急激に身長と体重が増加するからです。
第二次成長期は、脳性まひの方に限らず健常者の方も身長と体重が増加しますが、この時期は骨の成長が著しく起こることで身長と体重が増加します。
脳性まひの方の骨格(骨)も同様に急激に成長して伸びてくるので、身長と体重の増加が急激に起こりますが、骨の成長に筋肉の成長は追いついていきません。
脳性まひの方の筋は運動麻痺がみられパターン的な筋活動が主なので、多様な筋活動を行うことが困難です。
そのため、第二次成長期に健常児と同じように急激に骨の成長が見られるけれども、筋肉はそれに対応することができず変形や側弯といった代償的な身体構造になりやすくなるのです。
健常児でも成長期に関節に痛みが出現するのは、このように骨の成長に筋肉の成長が追いつかないことが原因です。
第二次成長期のみ変形や側弯が出現するのか?
ただ、脳性まひの方は第二次成長期のみに変形や側弯が出現し始めるわけではありません。
脳性まひの方の運動麻痺には様々なタイプがあり、麻痺の身体分布も個人によって様々です。
そのため、特に身体運動麻痺が重度になりやすい痙直型四肢麻痺やディストニック型四肢麻痺(以前のアテトーゼ型)の方は身体運動麻痺が複雑に起こるので、早ければ就学前の時期から変形や側弯といった症状が見られるようになる場合もあります。
変形や側弯が進行すると身体にどのような影響が見られるのか?
では実際に変形や側弯が見られるようになった場合、身体にどのような影響が見られるようになるのでしょうか。
前述したように、脳性まひだからといって特別な骨格で出生するわけではなく、出生直後は健常児と同じ骨格を持っています。
ただ、人の骨格は立って歩くための骨格をしているので、脳性まひの方のように立って歩くことが困難な身体状況にある方は、正常な骨刺激が骨格に与えられにくい傾向があります。
そのため、通常とは違った刺激が骨格に与えられることで変形や側弯といった症状が見られるようになります。
骨格は一緒なのに骨刺激が違ったものになってしまうということは、それだけ身体に掛かる負担も増加します。
その結果、慢性的な痛みが出現するようになったり、内臓機能が圧迫されて誤嚥を起こしたり肺炎になってしまったりといった内科的な症状が見られるなどの影響が出現するようになります。
例えば、日常的に立って歩くことが困難な方は、骨盤の臼蓋(いわゆる股関節)に十分な骨刺激が与えられにくく、臼蓋の形成が不十分になってしまいやがて股関節が脱臼してしまいます。
股関節が脱臼すると痛みが出現するようになりますし、立って歩くこと自体も困難になってしまいます。
このように変形や側弯は、慢性的な痛みの出現のみならず日常生活や基本動作の獲得に影響を与え、できていたことができなくなってしまうといった悪影響が見られるようになります。
どのように変形や側弯に対処していけば良いのか?
今まで変形や側弯に対してどのように対処していけばよいのかさまざまな方法が試行錯誤されています。
しかし、現在のところ変形や側弯に対して出現を予防することは難しいのが現状です。
ただ、変形や側弯の出現を予防することは難しくても出来るだけ身体運動の幅を広げるもしくは維持することは可能になってきています。
そのためには、出生時期からの運動の幅を広げるための運動療法や装具療法、もしくは手術療法やボトックス療法などといった対処法を実施することが必要です。
その中で小児理学療法は、出生後すぐから介入することがほとんどなので運動の幅を広げるという意味で重要な役割があります。
また、変形や側弯が出現する背景にパターン的な身体運動がありますが、変形や側弯が出現しても正常に近い位置に戻せる程度の身体運動が見られれば良いと思います。
つまり、一次的に側弯や変形が出現しても元の関節の位置に自身で戻すことができれば、側弯や変形の進行をある程度予防することができます。
側弯や変形が進行してしまうのは、変形や側弯を呈している関節の位置で固定されることで進行してしまいます。
小児理学療法の役割はパターン的な身体運動の幅を広げることですが、このように関節運動の幅を維持していくという意味でも重要な役割があるのです。
ただ、完全に変形や側弯を予防することは難しいので、変形や側弯とうまく付き合っていきながら日常生活活動の質を維持するという考え方が良いと思います。
まとめ
脳性まひの方は、程度の差はありますが出生後から持続するパターン的な身体運動により、第二次成長期という身長と体重が急激に増加する時期に変形や側弯が出現しやすくなります。
第二次成長期は骨成長が急激に起こる時期で、身体運動に多様性が乏しくなってしまいがちな脳性まひの方の筋肉はこの成長についていくことができません。
そのため、急激な骨成長に筋の成長が追いつかず、代償的に身体活動が行われることで変形や側弯が出現します。
このように、変形や側弯の発生の原因は分かってきていますが現在のところその症状を完全に予防することは難しいのが現状です。
ただ、変形や側弯ができるだけ身体的・日常生活活動に影響を及ぼさないようにしていくことは可能であり、生涯に渡ってうまく付き合っていくという考え方が重要です。
そのために、まずはなぜ脳性まひの方が変形や側弯が起こってしまうのかということをしっかり理解できるようにしていきましょう。
参考文献
正常発達 第2版 脳性まひの治療アイデア
脳性まひ児の24時間姿勢ケア-The Chailey Approach to Postural Management-