実は子供の頃より大切?脳性まひ成人期以降の身体ケアについて
脳性まひは、主に出生から身体的な麻痺症状が見られる先天性の中枢疾患(脳)です。
一昔前までは出生後のフォローはあまり一般的ではなかったのですが、近年は周産期医療の発達に伴い出生後すぐの段階から脳性まひのリスク管理や発達フォローが行われるようになってきています。
そのため、出生直後から発達のフォローを目的に理学療法士が介入する機会が増加し、積極的に乳幼児期から身体ケアが行われるようになってきました。
しかし、脳性まひは乳幼児期などの子どもの頃だけの疾患ではなく、成人になっても一生涯障がいが継続していきます。
今回は、新たな脳性まひにおける課題として、成人期以降の身体ケアについて考えていこうと思います。
成人期以降の脳性まひの環境はどのように変化していくのか
脳性まひは個人によって身体機能にばらつきがありますが、身体運動能力は5歳前後でピークをむかえ、身体症状が重度であれば7~8歳前後から身体運動能力が緩やかに低下していきます。
その後、第二次成長期にかけて急激に身長と体重が増加するので、今までできていた活動が身体バランスが崩れることで難しくなるリスクが高まります。
第二次成長期以降は学校を卒業して成人になっていきますが、成人になることで脳性まひの方の周囲の環境は大きく変化します。
まず、ある意味守られた環境である学校生活においては定期的に運動を行うことができますが、成人になり社会に出ることで定期的な運動の機会が減少します。
また、個人差があるとは言え社会に出るということは日常生活において自分でやらなければならないことが増えるということです。
今までのように定期的にリハビリに通おうと思っても、自身は仕事で忙しくなってきますし、もし家族に介助されていても家族は高齢になってくるのでリハビリにつれてくることも難しくなってきます。
このように成人になって社会人になるということは、脳性まひの方であっても少なからず環境の変化が影響するようになってきます。
身体的にはどのように変化していくのか
環境面では、なかなか今までのようにリハビリを受けることが難しくなってきますが、身体面でも大きな変化が見られるようになってきます。
健常者であれば、30歳前後になると体力の衰えや身体の代謝能力が低下してきて体重が増加しやすくなってきます。
脳性まひの方も同じように成人になると体力の衰えや身体の代謝能力が低下してくるのですが、健常者と比較するとより早期に症状が見られるようになってきます。
分かりやすく言うと、脳性まひの方は体力の衰えが30歳以前の20歳代から急激に見られるようになってくるということですね。
そのため、学校生活においてできていたことが成人になるとできなくなるリスクが高くなってきます。
例えば、学生の頃は杖をついて実用的に歩くことができていたけれども、成人になって日常生活が不規則になってきて運動を行う機会が減少し、車椅子での移動しかできなくなったということがあるのです。
どうして身体機能が20代という早期から低下するのか
脳性まひの方は、健常者と比較すると幼少期から様々な活動が困難になります。
例えば、学校に歩いて通うことも健常者より大変ですし、椅子に座って授業を受けることも困難な場合があります。
つまり、健常者と比較すると日常生活全般をより頑張って行っているということが言えます。
普段、私達健常者が何気なく行っている日常生活動作も、脳性まひの方にとっては体力をより多く使いますし、より工夫して行わなければならなくなります。
そのため、学校生活の時期はまだ年齢が若いためになんとか頑張ってできていた動作も、成人になると頑張って行おうにもそもそも体力や持久力が早期から低下してきているので、頑張ることができなくなってくるのです。
これは、バーンアウトという現象で別名燃え尽き症候群と言います。
あまりにも日常生活を始めとした活動を日々頑張りすぎてしまうことで、成人になったときに無気力のような状態になってしまい、かえって身体機能が急激に低下してしまうのです。
このように、成人になってからそれまでなんとかできていた動作が急にできなくなる背景には、バーンアウトのように毎日の活動が過活動になっていることが原因と考えられています。
成人期以降の身体ケアの現状とは
こういった背景がある中で、脳性まひ成人期以降の身体ケアはどの様になっているのかというと、まだまだ手探りな状態が続いているのが現状です。
日本はまれに見ないほどの少子高齢化が進んでいますが、脳性まひを始めとした小児疾患も少子高齢化が進んでいます。
脳性まひは、乳幼児期からの子どもの時期のリハビリは長い間行われてきた歴史があるので、ある程度どのように身体ケアを行っていけばよいのか確立されてきていますが、成人期以降の身体ケアについてはまだまだ確立されていないのです。
両親が高齢になって、身体的なケアを受けさせようにも病院に連れて行くことが難しくなり、そのまま施設に入所し寝たきりの状態で長年過ごすということもあり得るのです。
どのように身体的なケアを行えばよいのか
まずは成人期のみに視点をおくのではなく、出生から成人期までのトータルで考えて身体的なケアを行うことが重要です。
乳幼児期に形成された身体機能のベースは、学童期から成人期にかけても大きく影響します。
そのため、乳幼児期は多様な身体経験を通してできるだけ身体機能を高めることを目標にしていきます。
学童期は、乳幼児期に培った身体機能のベースを元に日常生活に役立つ基本動作(起き上がり・立ち上がり・車椅子への移乗など)の獲得を目指します。
学童期後半の第二次成長期は、急激に身長と体重が増加することで身体機能の低下が起こりやすいので、特に入念に身体のケアを行いながら基本動作能力の維持に努めます。
そして、成人期は第二次成長期のようにできるだけ基本動作能力の維持に努め、日常生活のリズムが崩れないようにしていくことが大切です。
理想としては、成人期以降も学校生活と同じような身体運動を行うことですが、前述したように成人期は過活動に伴う燃え尽き症候群のリスクがあるので、個人の生活スタイルにあった運動量の設定が必要です。
成人以降もできるだけリハビリを受けながら、積極的な身体機能の維持に努めることが良いと思いますが、家族の高齢化も考えて訪問リハビリや通所サービスなどの障がい者福祉制度を利用することも、生活の質を維持していくために重要だと思います。
ただ、家族の考え方としてはできるだけ自分で介助ができるうちは、体力が続く限り在宅で一緒に生活していきたいと考えている方たちがほとんどです。
リハビリの考え方は機能を向上させていくことですが、機能をできるだけ維持していくことも十分な身体的なケアとなると思います。
まとめ
脳性まひの成人期は、これまでこれといった身体的なケアの方法は考えられてきていません。
確かに乳幼児期からの子どもの時期の身体的なケアは、その後の予後を良くしていくために重要な介入です。
しかし、脳性まひの方も生命予後が改善し高齢化している影響から、もはや乳幼児期からの子どもの時期よりも、成人期以降の時期のほうが人生として長くなっているのが現状です。
そのため、乳幼児期よりも身体的な機能低下が目立ってくる成人期以降のほうが、身体的なケアを必要としているケースが多くなってきています。
脳性まひの身体ケアは、今後はもっと成人期以降にどのように身体機能が変化していくのかを予測して、乳幼児期から適切な介入を行うことが求められるようになってくるのではないでしょうか。
(参考文献)
正常発達 第2版
子どもの理学療法