腕神経叢損傷の概要
腕神経叢損傷は、主に交通事故やスポーツの怪我で起こる神経損傷です。痛みや運動麻痺が現れますが、損傷が軽度であれば自然に回復していきます。損傷の場所や程度によって治療法が異なるので、十分な検査を受けることが大切です。
腕神経叢とは
人間の体は、脳からの指令が脊髄(背骨の神経)を通り手足の神経に伝わることで、筋肉が動いて運動が起こります。また、体の感覚は、運動とは逆の経路で脳に伝わっています。
手の運動や感覚は、頚髄(脊髄の首の部分)から出ている5本の神経(神経根)を通って伝えられています。そして、この5本の神経が叢(くさむら)のように交差している部分を、腕神経叢と呼んでいます。
腕神経叢損傷
腕神経叢損傷は、腕が引き抜かれるような強い力がかかった時によく起こります。具体的には、オートバイ事故やスキーなどのスポーツ事故、機械に腕を巻き込まれるような事故で、腕神経叢が引き伸ばされて損傷して発生します。鎖骨の骨折や腫瘍によって、腕神経叢が損傷することもあります。
また、お産の時の分娩操作で頭と肩が引き離されるような力が加わった時にも、新生児の腕神経叢が損傷してしまうことがあります。この分娩時の損傷は、分娩麻痺とも呼ばれています。
症状
腕神経損傷では、手(肩から先)に痛みやしびれ、運動の麻痺が生じます。麻痺の場所や程度は、腕神経叢のどこがどの程度損傷したかによって異なります。
肩が上がらない、肘が曲がらないといった症状から、腕全体が全く動かない場合まで様々です。また、分娩麻痺では生まれてきた子供に、肩や肘を動かせないといった症状が現れます。
感覚や運動の麻痺以外にも自律神経障害として、瞳孔の収縮や発汗の低下などが起こることもあります。
治療
腕神経叢損傷では、損傷の程度がひどくなければ、2~3ヶ月程度で自然回復していきます。しかし、脊髄から神経根が抜けてしまう引き抜き損傷などでは自然回復は望めないので、手術が行われます。
自然回復するかどうかは神経損傷の場所と程度によるので、CTやMRIによって精密な検査が行われます。手術が必要な場合には、神経を再建したり、他の神経や筋肉を移植したりして回復を図ります。手術の後は十分なリハビリを行うことが大切で、術後1年程度はリハビリを継続することが必要となります。
まとめ
腕神経損傷は、事故やスポーツなどによって腕神経叢が損傷して、痛みや麻痺を生じる疾患です。損傷の場所や程度によって症状は様々で、自然回復が難しく手術が必要になる場合もあります。状態に合わせた治療を選択することが必要なので、医療機関とよく相談して適切な治療を受けることが大切です。
(参考文献 )
・標準整形外科学:中村利孝.医学書院.2016
・図解作業療法技術ガイド-根拠と臨床経験にもとづいた効果的な実践のすべて:石川斎編.文光堂.2011