様々な治療法があるADHDの治療法とは?
ADHD(注意欠如・多動症)は発達障害の中でも主要な障がいの一つであり、20人~25人に一人はADHDの可能性があると言われています。
それだけ他の発達障害の疾患同様に罹患する子どもが多い疾患なのですが、見た目上は障がいの程度が見えにくいことから、以前はそのまま何も治療を行うことなく健常者と同じように学校生活などの日常生活を過ごしていました。
しかし、近年発達障害が注目されるようになってきたことからADHDも様々な治療法が考えられるようになってきました。
そこで今回は、ADHDの主な治療法である心理社会的な治療法と薬物療法について紹介していきたいと思います。
社会性・コミュニケーション能力を培う心理社会的治療について
ADHDの治療には様々な治療法が確立されてきていますが、まずはADHDである本人が自分の特徴を理解していけるようにしていくことが必要です。
自分の特徴が理解できれば、場面に沿った行動や考え方ができるようになっていき、社会生活を円滑にすることが可能になります。
心理社会的治療は、そんなADHDの子どもたちの社会性やコミュニケーション能力を培うためにとても重要な治療法です。
心理社会的治療には以下のような治療法があります。
~環境調整~
子どもたちが自分の特徴(ここでは特性といいます)をしっかり理解するためには、その周囲にいる大人たちも子どもの特性を理解しなくてはなりません。
周囲の大人の理解や対応の仕方によって、子どもが自分のとるべき行動を自然と身に着けていくことが環境調整の目的です。
ADHDの子どもたちは、環境によって様々な行動を行います。
場面によっては落ち着いて行動できたり、逆に落ち着くことが難しかったりなどその症状は個人でそれぞれ違った症状がみられます。
子どもたちがどういった場面で困難さを抱えているのかということを周囲の大人が理解して、環境を調整することが症状の改善や本人の気付きにつながっていきます。
環境調整の行い方は以下のようなステップを踏みながら行っていきます。
周囲の環境から考えられる情報や刺激を抑える
ADHDの子どもたちは、私達が考えている以上に環境から様々な情報を受け取っています。
その情報や刺激の一つ一つが課題に集中することを邪魔してしまうので、情報量や刺激を減らし静かな環境を整えることが症状の改善につながっていきます。
例えば、保育園などで集中して課題に取り組めない時は周囲がガヤガヤしていたり、先生の声が聞き取りにくかったり、壁の掲示物が目についてしまったりなどの影響が考えられます。
こういった環境を調整するには、先生の声が聞き取りやすいように前の席に座らせたり、掲示物が目につかないように後方に掲示したり、静かな個室で対応したりなどの調整を行います。
こうすることで、本人も何に困っているのか理解しやすくなります。
周囲の大人や友達に自分のことを知ってもらう
自分の特性が理解できるようになってきたら、今度は周囲の大人や友達に自分のことを知ってもらうことが大切です。
ただ、周囲の大人たちはADHDであるということを真っ先に理解する努力が必要です。
周囲にいる両親や学校の先生などの大人は、ADHDの特性を理解し友達同士のコミュニケーションがうまくいくように環境調整をしてあげることが大事です。
本人が自分のことを理解できるようになってきたら、大人が周囲の友達に困ったことを伝えられるように環境設定を行い、本人では解決が困難な場面でも周囲のサポートが得られるようにしていきます。
こうすることで、本人の自己効力感が得られやすくなります。
本人が自ら解決できるようにしていく
順調にステップを踏んでくると、本人がどのようにすれば解決できるのかということを理解して問題に対処することができるようになってきます。
この段階になると、どうしても自身では解決できない困難な場面であってもサポートを得ようとすることができますし、対処できる場面では自分で対処することができるようになります。
~ペアレントトレーニング~
ペアレントトレーニングとは子ども自身がトレーニングを行うのではなく、保護者がADHDのお子さんにどのように接すればよいのかを学ぶトレーニングのことです。
トレーニングと言うと保護者の方は難しい印象を受けるかもしれませんが、一人ひとりの子どもの特性を本人と保護者がお互いに理解することは、保護者の方にとっても日常生活内で起こる問題を少なくしていく効果があります。
その時その場面にあった子どもの望ましい行動を引き出し、望ましくない行動を減らすために保護者の認識も変化していかなくてはなりません。
~ソーシャルスキルトレーニング~
保護者の方の認識を変化させ、子どもたちの特性を理解するペアレントトレーニングとは別に、子どもたち自身に行うトレーニングとしてソーシャルスキルトレーニング(SST)があります。
SSTは、子どもたちがその場の状況に応じた行動を行うことができるように社会の倫理に基づいたマナー・ルールを学び、人とのコミュニケーションを円滑にするための行動を練習します。
絵や写真・分かりやすい言葉を用いて状況にあった行動を簡潔に提示することで、自己効力感や達成感を感じてもらい、自信をもって学校生活や就労活動を行えるようになることを目標にしています。
ADHDの薬物療法とは?
ADHDの治療に薬物が使用されることも多いです。
しかし、薬物療法のみ行っていればADHDが治るわけではありません。
心理社会的治療のように、最終的に本人が自分の特性を理解しその場にあった適切な行動をとれるようになることが最終的な目標です。
薬物療法はあくまで症状がひどい場合において、その症状を和らげるために使用します。
ADHDの薬物療法で主に使用される薬には以下のようなものがあります。
~コンサータ~
主にドーパミンやノルアドレナリンに作用し、神経伝達物質の再取り込みを防ぐ。
ADHDの方の脳内においてドーパミンやノルアドレナリンがうまく作用しないことで行動の問題が起きています。
そのため、こういった神経伝達物質の伝達作用を改善することで症状の改善を促します。
副作用として食欲低下、入眠困難などの症状が出現する場合もあります。
~ストラテラ~
主にノルアドレナリンに作用し、神経伝達物質の再取り込みを防ぐ。
この薬もコンサータと同様に神経伝達物質の伝達作用を促進することで、ADHDの症状を和らげます。
特にノルアドレナリンに作用することが特徴で、徐々に薬の投与量を増やしていくことが特徴です。
副作用は眠気・食欲低下・吐き気などですが、コンサータより症状が軽い場合が多いです。
~インチュニブ~
最近(2017年)に発売され始めたADHDの新薬です。
コンサータやストラテラと違い神経伝達物質に作用するわけではなく、情報を受け取る側であるシナプスに直接作用することでADHDの症状を和らげる効果があります。
副作用としては、元々高血圧の薬として使用されていたため血圧が低下しやすく、心疾患がある子どもには使用することを控える場合があるようです。
まとめ
ADHDの治療法は、最近になって様々な治療法が展開されるようになってきており、主に心理社会的治療を行い本人の意識と周囲の理解を深めることで社会性を高めていくことが重要です。
薬物療法は、ADHDそのものを治す役割があるわけではなく、明らかに日常生活に支障をきたす場合にできるだけその症状を和らげるために使用します。
まずは心理社会的治療を行い、症状がひどい場合に薬物療法を行うことで症状の悪化を和らげ、最終的に本人が学校や社会において自分で問題を解決していけるようにしていくことが目標です。
ADHDの治療法をしっかり把握し、適切な治療が行えるようにしていきましょう。
(参考文献 )
こうすればうまくいく 発達障害のペアレントトレーニング実践マニュアル